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平成23年 民事系第1問

〔設問1〕

第1、(1)について

1、CのBに対する不当利得返還請求の論拠及び額は以下の通りである。

(1) 利益の存する限度

 Bは、甲の所有車である。甲の市場価格はCの内装工事により1億円から2億円に上昇している。Bは、Cの「労務」に「よって」甲の市場価値の上昇という「利益」を受けている。

 原告としては、Bは、Fに対し、甲を1億6000万円で売却しているので、上記利益は、6000万円の限度で「現存」していると主張する。

 これに対して、被告は、上記利益はDによるエレベーター設備の更新工事が寄与している部分も存在すると反論する。

 CDの報酬は、Cが5000万円、Dが2000万円であり、その比は5:2である。ゆえに、Bに生じた利益のうち約1700万円(6000万×2/7)はDの「労務」により生じたものである。

 Bに現存する利益は約4300万円である。

(2)損失

 Cは、Aに対して、2500万円の請負報酬支払債権を有し、Aは無資力である。Cには2500万円の「損失」が生じている。

(3)因果関係

 Cの労務が無ければ、Bに利益も生じなかった。Bの利益の「ために」Cに損失が及んでいる。

(4)法律上の原因

 原告は、Bの利益には「法律上の原因」がないと主張する。これに対し、被告は、不当利得の趣旨は、当事者間の実質的公平の実現であるため、「法律上の原因」の有無は、当事者間の権利関係を全体としてみて判断するべきであると反論する。

 Bは、Aに対して、Aが甲のエレベーター設置及び内装工事費を支出することを条件に、甲を、相場400万円の半額200万円で賃貸しており、さらに、最初の3か月分については賃料を免除している。ゆえに、Bに生じた利益4300万円のうち賃料3か月分1200万円については、「法律上の原因」が認められる。また、甲の賃貸借契約は、平成22年10月31日に解除されているため、Bに生じた利益のうち1800万円分についても「法律上の原因」が認められる。

 そうすると、Bに生じた利益4300万円のうち3000万円については「法律上の原因」が認められる。

2、以上により、Cは、Bに対し、1300万円の不当利得返還請求を行える(703条)。 

第2、(2)について

1、Cは、詐害行為取消権に基づき、AのFに対する敷金返還請求権放棄の意思表示を取消す(424条1項、2項)。以下その理由を示す。

(1)被保全債権

 被保全債権は、「債権者」Cが、「債務者」Aに対して有する2500万円の請負報酬支払債権である。

(2)財産権を目的とする法律行為

 詐害行為取消権は責任財産保全を目的とする。ゆえに、「法律行為」は被保全債権発生後に行われたものでなければならない。

 AのFに対する敷金返還請求権放棄の意思表示は、CのAに対する請負報酬支払債権発生後に行われた「法律行為」であり、また、「財産権を目的」とする。

(3)詐害行為性

 FのAに対する賃料債権は1200万円であり、敷金は2500万円である。敷金放棄をせずに、賃料を敷金により充当した方がAの責任財産は増加する。Aは自らが無資力であり、かつ、Cに対する請負残代金2500万円が未払いであることを知っている。

 Aは、F以外の債権者Cを「害することを知って」敷金放棄の意思表示をしたと評価できる。

(4)無資力要件

 詐害行為取消権は、私的自治への介入であるため、行使の必要性、即ち、詐害行為時及び取消時双方に債務者の「無資力」が必要であると解する。

 Aは詐害行為時から現在に至るまで「無資力」である。

2、以上により、上記結論に至る。

 Cは、詐害行為取消権を行使した上で、債権者代位権(423条1項)によりAに代位し、Fに対して敷金返還請求権を行使する。

3、尚、Fとしては、「転得の時において」「債権者」Cを害すべき事実を知らなかったと反論してくることが考えられるが、Fは、Aが敷金を放棄する際に、Aから、AのCに対する請負残代金未払いの事実を告げられているため、かかる反論は失当である。

〔設問2〕

1、Gは、履行不能による解除権に基づき、本件債権売買契約を解除する(543条)。以下その理由を示す。

(1)履行不能

 本件債権売買契約により、Fは、Gに対して、FがAに対して有することとなる平成23年1月分から同年12月分までの合計2400万円の将来賃料債権を譲り渡す債務を負う。

 AF間の賃貸借契約は平成22年10月31日付で解除されている。FのGに対する債務は「履行の全部が不能」になっている。

(2)帰責事由

 将来債権売買における売主は、当該債権の発生原因となる契約を解除した場合、買主を害することを当然に予見できるといえる。ゆえに、売主としては、契約を維持する等買主を害さないように配慮する取引上の注意義務がある。

 Fは上記義務を何ら行っていない。Fには過失が認められる。「債務者」Fの「責めに帰すべき事由」が認められる。

2、以上により上記結論に至る。

〔設問3〕

第1、(1)について

1、Hは、Aに対して、土地工作物責任に基づく損害賠償請求権に基づき、損害賠償請求を行う(717条1項)。以下その理由を示す。

(1)Hには、3か月の入院加療費用という「損害」が生じている。

(2)「瑕疵」とは、工作物が本来有しているべき安全性を欠いていることをいう。土地の工作物に設置されているエレベーターのボルトは、通常、十分に締められているものである。

 本件エレベーターは「土地の工作物」甲に設置されているものである。本件エレベーターのボルトは十分に締められていない。

 甲には「瑕疵」が認められる。

(3)Fの損害は、Fがエレベーターで転倒したことにより生じたものであり、Fの転倒は、エレベーターの瑕疵に基づくものである。

 甲の瑕疵に「よって」に損害が生じている。

(4)Aは、甲を「占有」している。

(5)以上により上記結論に至る。

2、Aが「損害の発生を防止するのに必要な注意」を行っていた場合には、Hは、甲の所有者Fに対して損害賠償請求を行う(717条1項但書)。

3、Hは、Dに対して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、損害賠償請求を行う(709条)。以下その理由を示す。

(1)Hは、右足を骨折している。Hは、身体という「権利」を侵害されている。

(2)エレベーターの設備の更新工事を行う者は、ボルトを十分に締める注意義務を負う。Dはかかる義務を行っていない。Dには「過失」が認められる。

(3)Hには、3か月の入院加療費用という「損害」が生じている。

(4)Hの損害はDの過失に「よって」生じたものである。

(5)以上により上記結論に至る。

第2、(2)について

1、身体的機能の低下及び疲労の蓄積は、人が日常生活を営む上で当然に生じるものであることから「過失」(722条2項)には当たらない。

2、もっとも、722条2項の趣旨は、損害の公平な分担である。ゆえに、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、722条2項を類推適用できると解する。

3、Hの身体機能の低下は、身体的特徴であり、個々人の個体差の範囲として当然に予定されているものであることから、損害の算定にあたりこれを考慮しなくとも公平を害しない。

 疲労の蓄積については、個々人の注意によって防止することができるものである。ゆえに、これを損害額の算定について考慮しないことは損害の公平の分担の趣旨に反する。

4、Hの疲労の蓄積については、722条2項を類推適用し、賠償額を減額事由になる。

以 上