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平成25年 民事系第1問

〔設問1〕

1、保証債務とは、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする債務のことを指す(446条1項)。ゆえに、保証債務の履行を成立するには、①主たる債務の発生原因、②保証契約の締結、そして、③保証契約が書面でなされたこと(446条2項)を主張する必要がある。

 また、代理人を介して契約を締結した場合には、代理権の授与及び代理人による顕名を主張する必要がある(99条)。

(1)①主たる債務の発生原因は、AB間での甲を目的物とする売買契約の締結であり、これは問題無く認められる。

(2)保証契約はBがCの代理人としてAB間で締結している。本件書面には、BがCの代理人であると示されているので「顕名」は認められる。

 もっとも、Bは、Aから何ら代理権を与えられていない無権代理人である。ゆえに、Aによる「追認」が無い限り、AB間での保証契約の効果は、Cには帰属しない(113条1項)。

 Cは、Aに対して、平成22年6月15日に、電話で、AB間の売買契約について連帯保証人になることについて異存はないと告げている。ゆえに、Cによる「追認」があったといえる。

 Cの追認により、AB間での保証契約締結の効果は、契約の時に遡ってCに帰属する(116条)。よって、②保証契約の締結についても認められる。

(3)民法が保証契約締結について「書面」を要求した趣旨は、保証人の意思を明確化させることにより、保証人を安易な保証契約の締結から保護するところにある。

 ゆえに、「書面」と言えるためには、保証人の契約締結の意思が明確に表れている必要があると解する。

 保証人の意思が明確に表れているか否かは、当該書面の内容だけではなく、それ以外の客観的事情を考慮し合理的に判断する。

 本件書面には、Bが負う債務についてCが連帯して保証する旨の記載があるが、Cの署名又は押印は存在しない。もっとも、Cは、Aに対し、電話で、Bが負う債務について連帯保証することを承諾する意思表示を行っている。ゆえに、Cは、Aに対し、保証人となることを明確に意思表示していると評価できる。

 CのAに対する意思表示をもって、③本件書面は「書面」に該当する。

2、以上により、Aは、Cに対し、保証債務の履行を請求することができる。

〔設問2〕

1、Bは、Fに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、Eに支払った報酬相当の金銭の賠償請求を行う(415条)。以下その理由を示す。

(1)Bには、Eに支払った金銭相当の「損害」が認められる。

(2)賃貸人は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物を使用する債務を負う(616条、594条1項)。具体的には、建物賃貸の場合には、建物に亀裂を生じさせるような工事を行ってはいけない債務を負うと解する。

 Bは、Fとの間で、丙建物を目的物として、賃貸借契約を締結している。ゆえに、賃借人Fは、丙建物に亀裂を生じさせるような工事を行わない債務を負う。

 Fは、丙建物に内装工事を施し、これによって丙建物には亀裂が生じている。

 Fは、「債務の本旨に従った履行」をしていない。

(3)Bに生じた損害は、Fによる債務不履行に「よって」生じたものである。

2、以上を主張し、Bは、Fに対し、上記請求を行う。これに対して、Fは、丙建物に工事を施したのはFではなくHなので、Fには、債務不履行につき「帰責性」即ち故意過失又は信義則上これと同視できる事由が存在し無いと主張してくる。

(1)履行補助者の故意・過失は、信義則上本人の故意・過失と同視できる。

 Hは、Fからの依頼を受けて、丙建物に対して内装工事を施している(632条)。Fは、Hと共に内装の仕様及び施行方法を検討しており、その検討結果に従い、Hは丙に対して内装工事を行っている。ゆえに、Hは、Fの手足として動く履行補助者であると評価できる。

(2)内装業を営む者は、内装を行う過程で目的物につき亀裂を生じさせないように注意する義務を負う。Hは、丙建物の内装工事を行う過程で誤って丙建物に亀裂を生じさせている。

 Hには「過失」が認められる。

(3)ゆえに、Fには、「債務者の責めに帰すべき事由」が認められる。

3、以上によりFの主張は失当である。

 Bは、Fに対し、Eに支払った金銭相当の損害賠償請求を行える(415条)。

〔設問3〕

第1、GのBに対する請求権の存否について

1、賃借人Gは、賃貸人Bに対して、必要費償還請求権に基づき、GがEに対して支払った報酬の相当額を請求する権利を有する(608条)。以下その理由を示す。

(1)民法は、賃借人が賃貸目的物に対して費用を支出した場合、不当利得の観点から賃貸人への必要費償還請求権を認めている。

 ゆえに、「賃貸人の負担に属する必要費」とは、単に目的物の現状を維持し、又は目的物自体の現状を回復する費用に限定されず、通常の用法に適する状態において目的物を保存するために支出した費用を含むと解する。

 Bは、Gに対して、コーヒーショップとして使用することを目的とし、丙建物を貸し渡している。Bは、丙建物の窓が損傷した場合には、これを修繕する義務を負う(601条)。

 ゆえに、丙建物の窓の修繕費用は、「賃貸人の負担に属する必要費」に当たる。

(2)丙建物の窓は暴風により損傷した。Gは、Eに対して、丙建物の窓の修繕を依頼し、その費用を支払っている。

 Gは、賃貸人の負担に属する必要費を「支出」している。

2、以上により上記結論に至る。

第2、相殺の可否について

1、設問判例は、抵当権が登記されている場合、物上代位によりその抵当目的物に関して生じる賃料債権にも抵当権の効力が及ぶと公示されているため、抵当権設定登記後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を抵当権の効力に優先させる理由は無く、したがって、賃借人の相殺の主張を退けたものである(505条1項)。

2、必要費返還請求権は、賃貸借契約とは別個の原因に基づき発生するものであり、また、賃貸借契約締結時において、その発生が必ずしも予期されているものでは無い。したがって、必要費返還請求権は、登記された抵当権のように公示されているわけではない。

 ゆえに、設問判例は、必要費返還請求権を自動債権として抵当権の物上代位の効力が及ぶ賃料債権を受働債権とする相殺を禁じるものではない。

4、以上により、Dの反論は失当である。

 Gは、必要費返還請求権を自働債権として相殺の主張をすることができる。

以 上