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平成25年 公法系第2問

〔設問1〕

1、取消訴訟の対象となる「行政庁の処分」(行訴法3条2項)とは、公権力の主体たる国若しくは公共団体の行為のうち、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものを意味する。

(1)本件認可は、「公権力の主体」たるC県知事が法39条2項に基づき行ったものである。

(2)土地区画整理事業とは、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する公共事業であり(法2条1項)、都道府県又は市町村は、これを施行することができるが(法3条4項)、公共事業の性質上、私人は、本来これを行えない。

 しかし、土地区画整理組合は、土地区画整理事業を行うことができ(法3条2項)、土地区画整理事業に係る施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、強制的に土地区画整理組合の組合員となる(法25条)。そして、土地区画整理組合は、組合員に対し、その事業に要する経費に充てるために金銭の徴収を命じることができる(40条1項)。

 ゆえに、土地区画整理組合は、法が認めた優越的な地位に基づき、土地区画整理事業という法の執行として、組合員に対し、権力的に金銭の徴収を命じる「公権力の主体」であると評価できるため、本件認可は、行政機関の内部的行為であり「処分」には当たらないとC県は主張してくる。

 もっとも、本件認可は、資料1の第6条〜8条を新設するものであり、本件臨時総会では、所有者等以外の者に対して賦課金が割り当てられる旨の本件要綱が議決されている(資料1第7条)。したがって、本件認可は、所有者等以外の者に対して、賦課金支払義務を形成するものであると評価できる。

 ゆえに、本件認可は、「国民の権利義務を形成する」ものである。

(3)条例の制定行為は、立法作用に属するものであり、その効果も、一般的抽象的に権利義務を形成するものであるため処分には該当しない。本件認可も、本件定款変更の認可であり、「直接」国民に対して権利義務を形成するものではないため、条例制定行為と同様に「処分」には該当しないとC県側は主張してくる。

 もっとも、本件認可によって、資料1の第6条から8条が新設され、組合員という限定的な者の中でも更に所有者等以外の者という限定的特定の者たちには、賦課徴金の支払い義務が「直接」に形成されると評価できる。

 ゆえに、本件認可は、一般的抽象的に権利義務を形成する条例の制定行為とは根本的に性質を異にするものであるため、C県の主張は失当である。

2、以上により、本件認可は、「処分」に該当する。

〔設問2〕

第1、法39条2項について

1、違法とする法律論

(1)公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進(法1条)といった社会政策を実現には、専門的判断能力が必要である。そして、かかる判断能力を有する国権は、行政権である。ゆえに、法は、組合の設立や定款変更の認可につき「必要な経済的基盤」といった抽象的な文言を基準とし定めている(法39条2項、21条1項4号)。「必要な経済的基盤」の有無について、法は、行政権に要件裁量を与えたものであると解する。

 本件認可の判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くか、または、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと等により本件認可が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱濫用として、本件認可は法39条2項の違法性を帯びる(行訴法30条)。

(2)本件事業は、地価が高騰しつつあったバブル経済期に計画され、保留地を高値で売却できることが資金計画の前提とされていたが、バブル経済の崩壊により、この前提が崩れている。ゆえに、本件組合に本件事業を行う「必要な経済的基盤」があるとしたC県知事の判断は、重要な事実の基礎を欠くものであると評価できる。

 また、本件組合は、地価はいずれ持ち直すという楽観的な見通しのもとに資金計画を変更し、さらに資金計画を迫られることを繰り返している。度重なる資金計画の変更は、本件組合が本件事業を遂行できるかについて大きな疑問を抱かせるものであることから、C県知事の本件認可の判断は社会通念に照らしても著しく合理性を欠くものであると評価できる。

(3)以上により、C県知事の本件認可は、裁量権の逸脱濫用として法39条2項の違法性が認められる。

2、適法とする法律論

(1)バブル経済が崩壊したからといって、地価がこのまま下がり続けるとは限らないことから、保留地を高値で売却できる可能性が全く無いわけではない。ゆえに、本件認可の判断となった事実に重要な基礎が欠けているとは言えない。

 また、本件組合は、度々資金計画を変更しながらも、補助金の増額や事業資金の借り入れにより対応してきている。ゆえに、本件組合に本件事業を行う「経済的基盤」が全く無いわけでは無いため、本件認可の判断が著しく合理性に欠くとはいえない。

(2)以上により、本件認可は、法39条2項に反するものではないといえる。

3、私見

(1)確かに、バブル経済が崩壊したからといって地価の下落が永遠に続くわけではない。しかし、地価が上昇する見込みがあるわけではなく、15億円もの負担を組合員が支払える保証があるわけでもない。

(2)ゆえに、本件組合に本件事業を行うために「必要な経済的基盤」は社会通展に照らして考えると、無いと考えるのが合理的である。

(3)本件認可には、法39条1項の違法性が認められる。 

第2、法38条4項について

1、違法とする法律論

 組合員は、書面により議決権を行え、出席者とみなされるが、議案に賛成するものと扱えるわけではない(法38条3項、4項反対解釈)。

 ゆえに、書面による議決権について、議案に賛成であると扱った本件臨時総会には、法38条3項、4項の違法性が認められる。

2、適法とする法律論

 本件では白紙委任が行われており、書面により議決権を行使した組合員は、議決権の行使を組合に委任したのであることから、かかる議決権を賛成として扱うことも委任の範囲内である。

3、私見

 本件要綱は、所有者等以外の者に賦課金支払義務を課すとしている。そして、書面による議決権行使者570名の有する宅地総面積は、21万㎡であることから、書面による議決権行使者は、平均して370㎡/1人の宅地を有することになる(資料2)。そして、自らに負担を課すような議案に全員が賛成することは明らかに不自然である。したがって、議決権行使者の合理的意思を考えると、少なくない人数が議案に反対したものであると考えるべきである。

 ゆえに、書面による議決権行使者の合理的意思を全く無視し、すべて議案に賛成であるとの扱いは白紙委任の範囲外にあるものである。上記適法とする法律論は失当である。

 本件臨時総会には、法38条3項、4項の違法性が認められる。

第3、法40条2項について

1、適法とする法律論

 組合は組合員に対して賦課金を課すことができるが、賦課金の額は「公平」に定めなければならない(法40条4項、2項)。

 本件組合の組合員の約80%は所有者等であることから賦課金が免除される(本件要綱)。ゆえに、本件賦課金は、組合員のうち20%の特定の者に対してのみ負担を課すものであり「公平」であるとは言えない。

 よって、賦課金の算定方法には、法40条2項の違法が認められる。

2、適法とする法律論について

 賦課金の算定方法は定款で定められているものではなく、本件定款変更とは無関係である。

3、私見

 本件要綱は本件定款変更と同時になされたものであることから、これらを一体として考えるべきでる。ゆえに、適法とする法律論は失当である。

 賦課金の算定方法には、法40条2項の違法性が認められる。

以 上