平成7年 旧司法試験 民法第1問
第1、本件冷蔵庫の撤去について
1、まず、Dは、ACに対して、本件山林の所有権に基づく妨害排除請求権に基づき、ACの費用において、本件冷蔵庫を撤去するようことを請求する(198条)。以下、その理由を示す。
(1)Dは本件山林を所有している(206条)。
(2)本件冷蔵庫はA及びDの所有物である。本件冷蔵庫が本件山林に不法投棄されていることにより、Dの本件山林の使用収益権の行使が「妨害」されている。
(ア)これに対して、ACは、本件冷蔵庫の所有権は放棄しているため、ACは本件山林の使用収益権の行使を「妨害」していないと反論する。
もっとも、物権は原則として各人が自由に処分できるが(176条、206条、376条)、物権を有する者は、その物権から生ずる責任を負わなければならず(717条)、物権について利害関係を有する第三者が現れた場合には、第三者の権利を害してはならない(374条1項、398条)。ゆえに、物から生じた責任を放棄する目的での所有権放棄は「権利の濫用」として許されないと解する(1条3項)。
(ウ)ACの本件冷蔵庫の所有権放棄は、Dへ対する責任を免れる目的のものである。よって、ACの反論は権利の濫用であり許されない。
(3)物権請求権は相手方に妨害除去を忍容させるにとどまる権利であるから、費用負担は請求者側にあるようにも思える。しかし、自力救済が禁止されている以上、物権的請求権は、相手方に行為を求める行為請求権と解すべきである。よって、物権的請求権行使に係る費用は相手方が負担する。
2、以上により、Dは、ACに対して、上記請求を行う。
第2、損害賠償請求について
1、DとACとの間に契約関係は存在しない。
2、Dは、Aに対して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、本件冷蔵庫の危険防止に必要な措置を講じるために費やした費用5万円の損害賠償請求を行う(198条、709条)。以下その理由を示す。
(1)Dは本件山林の「所有権」を「侵害」されている。
(2)廃棄物処理の専門家でもない者に業務用冷蔵庫の廃棄を頼んだ場合、不法投棄が行われることは飲食店経営者であれば予見可能であるといえる。ゆえに、飲食店経営者は、業務用冷蔵庫の廃棄を他人に依頼する場合には、廃棄物処理の専門家等、不法投棄をするおそれのない者に依頼する業務上の注意義務があると解する。
Aは飲食店経営者である。Aは単なる知人のBに本件冷蔵庫の廃棄を依頼している。Aには「過失」が認められる。
(3)Dには5万円の「損害」が生じている。
(4)Aの過失がなければ、本件冷蔵庫が不法投棄されることも無かったといえる。本件冷蔵庫が不法投棄されなければ、Dが本件冷蔵庫に危険防止に必要な措置を講ずることも無かった。ゆえに、Aの過失行為に「よって」Dに損害が生じている。
(5)以上により、AはDに対して上記請求を行う。
3、Dは本件山林の「所有権」を「侵害」されている。Cは「故意」に本件冷蔵庫をAの冷蔵庫のそばに捨てている。Dには5万円の「損害」が生じており、Cの故意行為がなければ、かかる損害は生じていなかった。Cの故意行為に「よって」Cに損害が生じている。
以上により、Dは、Cに対して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、本件冷蔵庫の危険防止に必要な措置を講じるために費やした費用5万円の損害賠償請求を行う(709条)。
以 上