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平成27年 民事系第1問

〔設問1〕

第1、(1)について

1、材木①は、平成23年4月1日、Aが所有する山林である甲土地から切り出した丸太をBが製材したものであり、山林は甲土地の「定着物」である(86条1項)。

ゆえに、Aは、平成23年4月1日時点から現在に至るまで、材木①の所有権を有していると主張する。

2、これに対し、Aは、Bに対して、4月1日に本件丸太を売却し、Bに引き渡していることから、本件丸太の所有権を失い、ゆえに、材木①の所有権も有しないとCは反論する(555条、176条、178条)。

  もっとも、Aは、Bに対して本件丸太を売却する際に、代金支払時まで所有権の移転を留保する特約を結んでおり、8月10日現在、Bは上記丸太の代金を支払っていない。ゆえに、AB間の売買の効果によって材木①の所有権は移転しない。

  Cの上記反論は失当である。

3、そこで、次に、Cは、即時取得により材木①の所有権を取得したと反論する(192条)。かかる反論は正当か。

(1)本件丸太は「動産」である。

(2)平成23年4月18日、BはCに対して、材木①を売却し、同月25日、これを「引渡し」た(182条1項)。

   Cは、「取引行為」によって材木①の「占有を始めた者」である。

(3)Cの占有は「平穏」かつ「公然」である。また、Bの材木①の占有は適法なものと推定されるため(188条)、Cは、Bの材木①の所有について「善意」であり「過失がない」と「推定」される。

   もっとも、Cは、これまでの取引経験から、Aが丸太を売却するときには、その所有権移転時期を代金支払時とするのが通常であり、最近、AB間でトラブルがあったことを知っていた。したがって、CはBが丸太の所有権をAから取得していないことを予見できたと評価できる。ゆえに、Cは、AまたはBに対して、AB間の売買について代金の支払いが済んでいるのか確認すべき取引上の注意義務があったと言える。

   CはAB間で代金の支払が既にされているものと即断し、A及びBに特に確認をしていない。

   Cには「過失」が認められる。

(4)Cの上記反論は失当である。

4、以上により、Aは材木①の所有権を有する。材木①の所有権者Aは、材木①を倉庫に保管することにより占有するCに対し、所有権に基づき、材木①の引渡請求を行える。

5、尚、Bは、1本15万円の本件丸太を材木に「加工」し1本20万円としているが、1本5万円の価格上昇は「工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超える」とは評価できない(246条但書)。

第2、(2)について

1、AはDに対して、付合による不当利得返還請求権に基づき、材木②の価格相当額の償還請求を行う(242条、248条1項)。以下その理由を示す。

(1)242条の趣旨は社会経済的不利益の回避にある。ゆえに「付合した」と言えるためには、分離することが社会経済上不利益であると評価できる客観的実体が必要である。

   材木②は乙建物の柱として利用されている。柱は建物の核であり、これを失うと建物は倒壊し建物としての実体を失うと言える。材木②は乙建物に「付合」している。

Dは乙建物の「所有者」である。Dは材木②の所有権を取得する。

(2)材木②の付合に「よって」Aには材木②の所有権喪失という「損失」が生じている。

(3)以上により、Aは、Dに対し、上記請求を行う。

2、これに対して、Dは以下の反論を行う。

(1)248条1項が準用する不当利得返還請求権(703条)の趣旨は当事者間の実質的公平の実現である。ゆえに、当事者間の関係を全体としてみて、利得者が対価関係なしに利益を受けたと評価できない場合には、248条1項の適用はないと解する。

(2)平成23年5月2日、Dは、Cと乙建物リフォームの請負契約を締結し(632条)、Cは乙建物のリフォームに材木②を使用している。そして、同年7月25日、DはCに対して請負代金600万円を支払っている。

   ゆえに、Dは、Cに対して材木②について対価を支払っていると評価できる。

(3)以上により本件に248条1項の適用は無い。

3、AのDに対する請求は認められない。

〔設問2〕

第1、(1)について

1、丸太③はA所有の甲土地の「定着物」である本件立木を切り出したものである(86条1項)。平成23年12月28日、丸太③の所有権者Aは、Eに対し、本件立木を売却している(555条)。

  以上により、Eは、Gに対し、丸太③の所有権を有すると主張する(176条)。

2、もっとも、Aは、Fに対しても、平成24年1月17日、甲土地及び本件立木を売却しているため、Fは、当事者AE及びその包括承継人以外の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」(177条)である。そして、Fは、甲土地の登記を取得している。

 ゆえに、Eは、Fに対し、甲土地及びその定着物である本件立木の所有権を主張できない。結果、Eは、一物一権主義により本件立木の所有権を喪失する。

3、Eの主張は失当である。Gは、AF間の甲土地売買及びFの甲土地所有権移転登記の事実を主張・立証することにより、Eの請求を拒否することができる。

第2、(2)について

1、GはEに対して、留置権に基づき、Eの請求を拒否する(295条1項、299条1項)。以下その理由を示す。

(1)丸太④が「他人」Eの「物」であり、Gが「占有」していることに争いはない。

(2)留置権は、他人の物を留置することによって、相手方に心理的圧迫を与えて弁済を促すことを目的とする。ゆえに、「その物に関して生じた債権を有する」かは、債権と物との間に牽連関係の有無により判断する。

   Gは、Fとの寄託契約(657条)に基づいて、丸太③の占有を開始している。GはFに対して、本件寄託契約に基づき、30万円の保管料支払請求権を有し、Gが丸太③を留置することにより、Fに対して保管料の支払いを促すことができる牽連関係が認められる。

   ゆえに、Gは丸太③に「関して生じた債権を有する」。

2、以上により上記結論に至る。

〔設問3〕

第1、(1)について

1、「行為の責任を弁識するに足りる能力」とは加害行為の法律上の責任を弁識するに足りるべき知能を意味する。Hは「未成年者」であるが、満15歳であるから、責任能力が無いとは言えない(712条)。ゆえに、本件に714条の適用は無い。

  Lは、Cに対して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償請求を行う(709条)。以下その理由を示す。

(1)Lは右腕を骨折している。Lは身体という「権利」を侵害されている。

(2)CはHの親権者であるため、CはHを監護する義務を負う(818条、820条)。具体的には、Hが悪質な悪戯をしていることをCは認識していたのであるから、反抗的なHにどのような対応をすればよいのかを学校の職員に聞く等何らかの対策を講じる義務があったと言える。

   CはHに一般的な注意をしているが、それ以上の対策は講じていない。Cには「過失」が認められる。

(3)Lには、右腕骨折の治療費等として30万円の「損害」が生じている。

(4)CがHに適切な対応をしていれば、Hが悪戯をしなくなり、Lに上記損害は生じなかったと言える。Cの過失行為に「よって」Lに損害が生じている。

2、以上により、上記結論に至る。

第2、(2)について

1、CはLに過失があったと主張し、損害賠償額の過失相殺を主張する(722条2項)。以下その理由を示す。

(1)Lは「被害者」である。

(2)過失相殺の趣旨は、損害の公平な分担にある。ゆえに、「過失」とは、被害者と身分上一体をなすとみられるような関係にある者の過失も含まれると解する。

   KはLの親である。Kは、Lと身分上一体をなすとみられるような関係のある者に該当する。

   前照灯が故障している自動車を運転すると、前方が見え難くなるので、運転手は通常要求される以上に前方に注意を払う義務があると評価できる。

Kはあたりが暗くなってから前照灯が故障している自動車を運転している。Kには通常要求される以上の前方注意義務があったと評価できる。

Kは前方に通常以上の注意を払うことなく、携帯電話で電話をし、片手で自動車を運転している。Kには「過失」が認められる。

ゆえに、Lには「過失」が認められる。

2、以上により、上記結論に至る。

以  上