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司法試験の過去問の答案をアップしていこうと思っています。

平成16年 旧司法試験 民法

〔設問1〕

1、Aは、Bと合意して、本件請負契約を解除できる。

2、Bが解除に合意しない場合、Aは、Bに対して債務不履行に基づく解除権を行使して本件請負契約を解除できるか(541条、540条、632条)。

(1)請負契約の請負人は、瑕疵の無い仕事をする債務を負う(635条)。「瑕疵」とは、通常有すべき性能・品質を欠いている状態を意味する。

住宅は、人の居住が予定されているものである。ゆえに、安全性の観点から、住宅は通常コンクリートの基礎工事が適切に行われているものである。

Bは、コンクリートの基礎工事が不完全なまま、その後の工事を進めている。よって、Bは「債務を履行」していない。

(2)Aは、Bに対して、工事の追完を求めている。Aは、Bに対して、「履行の催告」を行っている。

(3)Aの催告から相当期間を経過してもBがコンクリートの基礎工事を追完しない場合、Aは、Bに対して解除の意思表示により本件請負契約を解除できる。

3、上記解除権は債務不履行責任である。Bが、善意無過失の場合、解除権の発生が認められない。この場合、Aは、注文者による契約の解除権に基づき本件請負契約を解除できるか(641条)。

(1)641条は、不必要な請負契約を回避し、経済的効率を向上させることを趣旨とする。「仕事を完成」させたか否かは、契約内容を加味し客観的に決する。

(2)本件請負契約は、A所有の土地上に住宅を建築することを目的とする。ゆえに、A所有の土地上に住宅としての機能を有する不動産の完成をもって「仕事を完成」と言える。

   Bは、未だにコンクリートの基礎工事しか完成させていない。Bは「仕事を完成」させていない。

(3)以上により、AはBに対して、損害を賠償した上で本件請負契約を解除できる。

〔設問2〕

1、Aは、瑕疵担保責任による解除権に基づき本件請負契約を解除した上で、契約の消滅を主張し、Bの請負残代金請求を拒否することができるか(635条)。

(1)635条は、債務不履行責任の特則である。「瑕疵」とは、引渡までに生じた瑕疵を指す。

住宅は、人の居住が予定されているものであることから、通常、防水工事が適切に行  われているものである。Bが完成させた本件住宅は、屋根の防水工事の手抜きという「瑕疵」が認められ、かかる瑕疵は受渡前に生じたものである。

(2)本件住宅は、大雨が降れば雨漏りが発生するものである。甲は、住宅として本件住宅を使用する目的で本件請負契約を締結している。屋根に防水工事の手抜きがある本件建物では、「契約をした目的を達成することができない」。

(3)635条但書が建物建築請負契約の解除を禁止した趣旨は、原状回復による社会経済的不利益を回避するところにある。ゆえに、建物に重大な瑕疵があるために建て替えざるを得ない場合には、635条但書の趣旨が及ばないため、建物建築請負契約であっても解除することができると解する。

   本件請負契約は、建物建築請負契約であることから解除できないのが原則である。もっとも、防水工事の瑕疵が重大で、本件住宅を建て替えざるを得ない場合には、契約を解除することができる。

2、本件請負契約が解除できない場合、Aは、Bに対して、防水工事手抜きの瑕疵を修補するまで請負残代金を支払わないと主張する。但し、瑕疵が重大ではなく、修補に過分の費用を要するときはこの限りでない(634条1項、2項、533条)。

3、請負人の担保責任は、無過失責任である。Aには、屋根の補修工事に要する費用100万円の「損害」が生じており、かかる損害は、本件住宅の「瑕疵」に基づくものである。ゆえに、Aは、Bに対して、100万円の損害賠償請求権を有する(634条2項)。

  Aは、Bに対し、上記100万円の支払いと請負残代金支払いの同時履行の抗弁権を主張することができる。

4、Aには50万円の「損害」が生じており、かかる損害は、屋根の手抜き工事というBの「過失」に「よって」生じたものである。ゆえに、Aは、Bに対して、50万円の損害賠償請求権を有する(709条)。

  Aは、Bの請負残代金支払請求に対して、上記損害賠償請求権との相殺(505条1項)を主張できる。

5、Aは、Bに対する上記100万円の損害賠償請求権と請負残代金支払請求権の相殺を主張できるか。

  同時履行の抗弁権が付着した債務は、原則として「性質が」相殺を「許さない」ものである。

もっとも、請負人の担保責任に基づく損害賠償請求権と報酬支払請求権は、相殺を認めた方が当事者双方の便宜と公平にかないまた、相手方に不利益を生じさせることもないことから、相殺が認められると解する。

  Aは、Bに対する請負人の担保責任に基づく100万円の損害賠償請求権と報酬支払請求権との相殺を主張することができる。

以 上