答案置き場

司法試験の過去問の答案をアップしていこうと思っています。

平成22年 旧司法試験 民法

〔設問1〕

第1、(1)について

1、Bは、Aに対し、不当利得返還請求権に基づき、500万円の不当利得返還請求を行うことができる(703条)。以下その理由を示す。

(1)Aは、「他人」Aの「財産」である500万円を受け取ることにより、500万円の「利益」を受けている。

(2)Aに500万円を渡すことにより、Bには、500万円の「損失」が生じている。

(3)Aの受益がなければBの損失も無かったことから、Aの受益の「ために」Bには上記損失が発生している。

(4)個人の自由な意思に基づいて法律行為を行えるとする「私的自治の原則」(90条)は、意思表示、すなわち、「事理を弁識する能力」(7条)を前提としており、意思無能力者は、単独で有効に法律行為を行えない。

本件売買契約当時、Aは、事理弁識能力を欠く意思無能力者であるため、本件売買契約は、無効である。

ゆえに、Aの利益について「法律上の原因」は認められない。

2、以上により上記結論に至る。尚、Aは、甲絵画をBに戻しているため、Bは、同時履行の抗弁権の適用・類推適用を主張することはできない(533条)。

3、法律行為の「無効」は、何人でも主張できるのが原則である。もっとも、意思無能力による無効の主張は、表意者保護を目的とするものであることから、例外的に、意思無能力者本人からしか主張できない。

よって、Bの方から本件売買契約の無効を主張することはできない。Bは、Aに対して、甲絵画の返還請求を行えない。

第2、(2)について

1、Aは、Bに対して、不当利得返還請求権に基づき、500万円の返還請求を行う。これに対し、Bは、甲絵画と引き換えでなければ500万円を返還しないと反論する(533条)。かかる反論は正当か。

(1)同時履行の抗弁権は、明文上「双務契約」の存在を求めている。本件売買契約は無効であることから、本件に「双務契約」の存在は認められない。ゆえに、533条の直接適用はない。

(2)もっとも、同時履行の抗弁権は、当事者の公平を趣旨とするため、当事者の公平を図るべき「特段の事情」が認められる場合には、533条を類推適用できると解する。

意思無能力者の行為態様は、通常、外観から明らかに不自然であり、僅かな注意を払えば気づきえる。Aは、Bの言うままに、甲を購入している。Bには、Aの意思能力の不存在につき注意を払わなかった帰責性が認められる。

他方で、Aの責めに帰すことができない事情により甲は滅失している。ゆえに、Bの反論を認めると、本件売買契約を有効とするのと同じ結果となり、意思無能力者保護を図ろうとする民法の趣旨(7条以下)に反する。

よって「特段の事情」は認められない。

2、以上によりBの反論は失当である。AのBに対する請求は認められる。

尚、危険負担(534条以下)は、契約の成立を前提とした規定であるため、契約そのものが原始的無効の場合に、適用・類推適用をすることはできない。

〔設問2〕

1、単独で有効に法律行為を行う地位・資格のことを行為能力といい、人は年齢20歳をもって、行為能力者となる(4条、5条1項)。

成年被後見人」とは、後見開始の審判を受けた者を指す(8条)。

本件売買契約当時、Aは「被後見人」に当たらない。本件売買契約の締結は「被後見人の法律行為」には当たらず、取消権は発生しない(9条)。

Cは、本件売買契約を取り消すことはできない。

2、表意者保護の観点から意思無能力の主張は本人からしかできないのが原則であるが、被後見人は、財産に関する法律行為につき「本人」を「代表」する者であるため、本人を代表し意思無能力の主張ができる(859条1項)。

Cは、Aの意思無能力を理由に本件売買契約の無効を主張できる。

3、成年被後見人は、追認能力を有さないが(124条2項反対解釈)、これは、成年被後見人保護の観点から追認権行使に制限を加えたに過ぎず、追認権自体が無いとする規定ではないと解する。

ゆえに、後見人Cは、被後見人Aを代表し、本件売買契約を追認できる(859条1項)。

以 上