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平成28年 刑事系第2問

〔設問1〕

第1、事実2について

1、Pは、甲の進行方向正面に立ち進路を塞ぎ、甲の移動の自由(憲法22条1項)へ対して制約を加えているが、甲は、いずれも自己の意思で甲車に戻っている。Pによる留め置きは、甲の意思を抑圧するものではないため、「強制の処分」(197条1項但書)には当たらない。

2、任意捜査でも何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるため、捜査比例の原則(憲法13条)に照らし、捜査の必要性、緊急性を加味し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許されると解する。

(1)甲には覚せい剤取締法違反の前科があり、目の焦点が合わず異常な量の汗を流すなど、覚せい剤使用者特有の様子が見られた。また、甲には左肘内側に赤色の真新し注射痕がみられ、甲は所持している注射器の提示を不自然なまでに拒否している。

ゆえに、甲は、所持していた注射器で覚せい剤を自身の左肘に打ち、覚せい剤反応により覚せい剤使用者特有の症状が現れていると考えられる。覚せい剤使用者は、幻聴等により暴走し、市民に危害を加える危険性がある。また、覚せい剤使用者の再犯率が高いということは公知の事実である。

ゆえに、Pには、甲を留め置き、捜査する「必要性」があった。

(2)Pは、二度に渡り甲の進路を塞いでいるが、その態様は、甲の目の前に立っただけであり、甲に対して何らかの有形力を行使したものではない。したがって、甲の移動の自由へ対する制約は極めて軽微である。

(3)留め置きを行う必要性に対し、制約の態様は軽微であることから、事実2の留め置き行為は、いずれも相当性を有する。

3、以上により、事実2の留め置き行為は、いずれも任意捜査として適法である。

第2、事実3について

1、胸部及び腹部を突き出して、甲の身体と接触し、甲車運転席まで押し戻す等の有形力を行使しているPによる留め置きは、「強制の処分」に当たる。以下その理由を示す。

(1)相手方の任意であれば「強制」とは言えず、また、197条1項は、憲法35条の令状主義の趣旨を受けて制定された規定である。

ゆえに、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、身体・住居・財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を達成する行為など、特別な根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する。

(2)Pによる留め置きは、甲の移動の自由等の憲法が保障する重要な権利に対して制約を加えるものである。

(3)「意思を抑圧し」とは、明示若しくは黙示の意思に反しという意味である。

甲に対する留め置きは、午前11時から開始されて5時間に及んでいる。通常人であれば、このような長時間に渡る留め置きを許容するとは考えづらい。甲は、Pから「令状が出るまで、ここで待っていてくれ。」と言われたのに対し、「嫌だ」と明確に拒絶の意思を表明している。さらに、甲は、その後「帰る」と言っている。ゆえに、甲は、明示的に本件留め置きを拒絶していると評価できる。

ゆえに、本件留め置きは、甲の明示の意思及びに明らかに反するものである。

2、以上により、Pによる甲の留め置きは、甲の意思を抑圧し、移動の自由に対して制約を加え、強制的に捜査目的を達成する「強制の処分」に該当する。

  そして、かかる留め置きを許容する法律上の定めはない。本件留め置きには令状主義の違法が認められる(197条1項但書)。

〔設問2〕

第1、①について

1、甲は、覚せい剤所持の被疑事実で現行犯逮捕され、「身体の拘束を受けている被疑者」である。ゆえに、甲には、弁護人との接見交通権が保障される(39条1項)。

2、もっとも、甲は起訴されていないため、検察官Sは、「捜査のために必要があるとき」は、接見交通権の日時等を指定することができる(39条3項)。

接見交通権の保障は、弁護人依頼権(憲法34条前段)等の被疑者の権利を実質的に確保する上で不可欠なものである。ゆえに、「捜査のために必要があるとき」とは、現に取調や弁解録取等の捜査手続中である場合等、捜査の中断による支障が顕著な場合を指すと解する。

Sが①の接見指定をした当時、甲は、現に弁解録取の手続中である。接見交通を認めると、弁解録取をやり直さなければならないおそれもあることから、捜査の中断による支障が顕著であるといえる。

  ゆえに、「捜査のために必要がある」ため、Sは、接見交通日時等の指定ができる。

3、もっとも、接見指定は、被疑者の防御権を不当に制限するものであってはならない(39条3項但書)。特に、初回接見は、身体拘束された被疑者が今後防御権を行使する上で重要な意味を持つものである。ゆえに、即時又は近接した時点での接見が可能かをまず検討し、可能であれば、比較的短時間であっても、即時又は近接した時点で接見を認めるべきである。

  Sは、9時50分のTから接見の申出に対して、弁解録取手続終了までに30分を要し、H警察署に移動するのに30分を要することから、約1時間後の11時という近接した時点で、Tの指定したH警察署での接見を認めている。また、これに対して、Tから特段の異議もない。ゆえに、①の接見指定は、甲の防御権を不当に制限するものではない。

4、以上により、①の措置は適法である。

第2、②について

1、甲は、Sに対して、「お話したいことがある」と言い自白をしようか迷っている。甲は、一貫して容疑を否認していた者であることから、ここで取調を中断すると、甲から自白を得る機会を失う可能性があり、そうなった場合、「捜査の中断による支障が著しい」といえる。ゆえに、②を行う「必要性がある」といえる。

2、もっとも、接見交通日時の変更は、接見交通日時の指定により一度制約された弁護人依頼権等の被告人の防御権に対して、更に制約を加えるものである。したがって、一度指定された接見交通の日時を変更することは、防御権を制約される被疑者や、弁護人となろうとする者の同意がなければ許されないと解する(39条3項但書)。

  弁護人Tは、②の措置に対して、「予定通り接見したい。」と主張して譲っていない。また、実際問題として、有罪判決を受けたら刑務所に行く可能性のある甲と弁護人を接見させる必要性も高い。ゆえに、②の措置は、甲の防御権を「不当に制限するようなもの」であり違法である。

〔設問3〕

1、供述過程には誤りが入る危険性があるため、反対尋問や供述態度の観察等により、その内容の真実性が担保されなければ証拠能力を認めるべきではない。

  ゆえに、法は、公判期日外の供述を内容とする公判廷における供述または書面で、その内容の真実性が問題となるものの証拠能力を認めないとした(320条1項)。内容の真実性が問題になるか否かは、要証事実との関係で相対的に決せられる。

2、資料③部分は、「公判期日外の他人乙の供述」を内容とする証人甲の供述であり、本件争点は、平成27年6月28日に、乙方において乙が甲に覚せい剤を譲り渡したか(争点①)、その際、乙に、覚せい剤であるとの認識があったか(争点②)の二点にある。

  資料③部分は、「お前が捕まったら、俺も刑務所行き」を内容とする。甲に渡したものが違法な薬物であると乙が認識していなければ、資料③の発言をすることは考え難い。ゆえに、資料③は、その存在自体により、乙が甲に覚せい剤を渡したことを認識していたと推認させるものである。また、争点①については乙の自白調書により立証することができる。

  ゆえに、資料③は、争点②を立証するために用いられたものであり、その要証事実は、資料③の発言の存在である。ゆえに、資料③は、要証事実との関係でその内容の真実性は問題とならない。

3、以上により、資料③は伝聞証拠(320条1項)には当たらない。資料③の証拠能力は認められる(317条)。

〔設問4〕

わかりません。