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平成28年 民事系第1問

〔設問1〕
第1、(1)について
1、Eは、A及びDに対し、売買契約に基づき、甲土地の所有権移転登記手続請求を行う(555条)。以下その請求の根拠を示す。
(1)AはEとの間で甲乙の売買契約を締結している。
(2)Aは、Cの代理人として本件売買契約を締結している(99条1項)。
(3)本件売買契約当時、Cは18歳であり、Aはその親である。ゆえに、Aは、親権に基づきCの財産を管理する包括的代理権を有する(818条1項、824条1項)。もっとも、利益相反行為についてはこの限りではない(826条1項)。
   826条の趣旨は、子の財産保護と取引安全の調和にあると解する。ゆえに「利益が相反する行為」か否かは、外形的客観的にみて親と子の利害対立があるか否かで決する。
   本件売買契約は、AがCの代理人としてEと締結しているのであるから、外形的・客観的に見て、本件売買契約の当事者はEとCであり、本件売買契約による代金支払請求権はCに帰属する。ゆえに、外形的客観的にみて、本件売買契約はAとCの利害が対立するものであると評価することはできない。
ゆえに、本件売買契約は「利益が相反する行為」には当たらない。Aは、親権に基づき、Cの所有する甲乙を売却する代理権を有する。
(4)よって、本件売買契約の効果はCに帰属する。そして、契約締結後、Cは死亡し、ADがこれを相続しているため、本件売買契約に基づく権利義務はADに承継される(896条)。
(5)以上により上記結論に至る。
2、もっとも、Aは、本件売買契約についてCに何らの相談や承諾もせず、甲売却による代金を自己の借金の返済に充てようと考え、実際に、甲売却による代金450万円を借金の返済に充てている。これは明らかにCの利益に反する行為であり、子の利益保護を目的とする親権の趣旨に反する(820条)。
ゆえに、Aによる本件売買契約の締結は代理権の濫用であり、無効であると考える。
3、では、上記無効をEに主張することはできるか。Aの主観的意図は、経済的利益の帰属について、Cの利益を図ることではなく、自己の利益を図ることにあり、心裡留保に類似している。よって、相手方が、権限濫用について「知りまたは知ることができた」場合には、93条ただし書を類推適用して、代理人の代理行為の無効を主張しうると解する。
  Eは、乙土地の売買代金についてAが自己の借金に充当することを知っていた。よって、Eは、甲土地の売買代金についてもAが自己の借金に充当すると「知ることができた」。
ADは、本件売買契約の無効をEに主張できる。
4、Eの本件請求は失当である。
第2、(2)について
1、Bの所有していた乙土地をCが相続により承継し、さらにADがこれを共同相続している。ゆえに、Dは、乙の所有権を有する。Fは、乙土地について所有権移転登記を有し、さらに、乙土地上に丙建物を建築し、これに居住することにより乙土地を占有している。
Dは、Fに対し、所有権に基づき、乙土地の所有権移転登記抹消手続請求及び丙建物収去土地明渡請求を行う(206条)。
2、もっとも、平成24年3月30日、Fは、無権利者Eとの間で乙土地の売買契約を締結している。Fを「第三者」(94条2項)として保護することはできないか。
(1)94条2項の趣旨は虚偽の概観を信頼した第三者を保護しようとした権利外観法理である。ゆえに、94条2項の適用には、前提として、虚偽の外観を信頼した取引の存在が必要であると解する。
(2)乙土地の所有権者はADであるのにも関わらずEに所有権移転登記がある点に虚偽の外観は認められる。もっとも、Fは、チラシに乙土地が紹介されていたことから、仲介業者に問い合わせ乙土地を購入している。Fは、乙土地の虚偽の登記を信頼して取引をしたわけではないことから、乙土地売買について、権利外観法理の適用の前提を欠く。
(3)本件に94条2項の適用も類推適用もできない。Fを「第三者」として保護することはできない。
3、以上により、DのFに対する請求は認められる。
〔設問2〕
第1、(1)について
1、平成26年4月1日、Hが平成27年5月30日に500万円を返済することを合意した上で、Hは、Eに対して500万円を貸し付けている。したがって、Hは、Eに対し、金銭消費貸借契約に基づく、500万円の返還請求権を取得する(587条)。そして、Hは、かかる債権をMに譲渡し(466条1項)、内容郵便証明で債務者Eに通知している(467条1項)。Mは、Eに対して、本件金銭消費貸借契約に基づき、500万円及びこれに対する利息や遅延損害金の支払請求を行う。
2、もっとも、Hは、Eに対し、Gが主催する賭博で使うことを打ち明けて、500万円を借りているため、本件金銭消費貸借契約は公序良俗に反し無効である(90条、刑法185条)。
そして、Eは、Hに対して「譲渡したことを承諾します。」と記載された書面に署名押印をし、Hに返送していることから、HのMに対する債権譲渡を「異議をとどめないで承諾」したといえる。債権が公序良俗に反し無効であるという主張は、債務者Eが譲渡人Hに対し対抗することができた「事由」であるため、Eはこれを譲受人Mに対抗することができないのではないか(468条1項)。
(1)468条1項の趣旨は、譲受人の信頼保護及び債権取引の安定である。ゆえに、「事由」の存在につき、譲受人に悪意又は過失がある場合には、守るべき信頼が無いため468条1項の適用は無いと解する。
(2)MがEの資産を確認していれば、HがEに500万円貸し付けたことに疑問を持ち、本件債権が違法賭博を目的とする貸し借りを原因として発生したものであると知ることができた。MはHから本件債権譲渡に際して、Eが経営的に苦しいと聞かされていながらその資産について確認していない。したがって、Mには「過失」が認められる。
(3)よって、本件に468条1項の適用は無い。MのEに対する本件請求は認められない。
第2、(2)について
HM間の債権譲渡の目的債権が無効であるため、Mには500万円の「損害」が発生している。賭博目的で金銭を借りるべきではないことからEに「過失」が認められる。Eの過失が無ければ本件債権譲渡も無くMに500万円の損害も発生しなかったことから、Eの過失に「よって」Mに上記損害が発生している。
以上により、MはHに対し、不法行為に基づき損害賠償請求を行う(709条)。
第3、(3)について
1、保証契約は主債務が存在しなければ成立しない(446条1項)。そして、金銭消費貸借契約は「受け取ることによって、その効力を生じる」(587条)と規定されているため要物契約である。ゆえに、金銭の交付が無ければ金銭消費貸借契約は成立しない。
2、EK間では、500万円の金銭消費貸借契約について書面を作成しているが、金銭の交付はない。ゆえに、EK間に金銭消費貸借契約は成立しない。したがって、LがEの債務を保証する旨の契約の効力も生じない。
3、LはEに対し584万円を支払っているが、かかる支払いに「法律上の原因」はない。よって、LはEに対し不当利得返還請求権に基づき584万円の返還請求ができる。
以 上