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平成16年 旧司法試験 民法

〔設問1〕

1、Aは、Bと合意して、本件請負契約を解除できる。

2、Bが解除に合意しない場合、Aは、Bに対して債務不履行に基づく解除権を行使して本件請負契約を解除できるか(541条、540条、632条)。

(1)請負契約の請負人は、瑕疵の無い仕事をする債務を負う(635条)。「瑕疵」とは、通常有すべき性能・品質を欠いている状態を意味する。

住宅は、人の居住が予定されているものである。ゆえに、安全性の観点から、住宅は通常コンクリートの基礎工事が適切に行われているものである。

Bは、コンクリートの基礎工事が不完全なまま、その後の工事を進めている。よって、Bは「債務を履行」していない。

(2)Aは、Bに対して、工事の追完を求めている。Aは、Bに対して、「履行の催告」を行っている。

(3)Aの催告から相当期間を経過してもBがコンクリートの基礎工事を追完しない場合、Aは、Bに対して解除の意思表示により本件請負契約を解除できる。

3、上記解除権は債務不履行責任である。Bが、善意無過失の場合、解除権の発生が認められない。この場合、Aは、注文者による契約の解除権に基づき本件請負契約を解除できるか(641条)。

(1)641条は、不必要な請負契約を回避し、経済的効率を向上させることを趣旨とする。「仕事を完成」させたか否かは、契約内容を加味し客観的に決する。

(2)本件請負契約は、A所有の土地上に住宅を建築することを目的とする。ゆえに、A所有の土地上に住宅としての機能を有する不動産の完成をもって「仕事を完成」と言える。

   Bは、未だにコンクリートの基礎工事しか完成させていない。Bは「仕事を完成」させていない。

(3)以上により、AはBに対して、損害を賠償した上で本件請負契約を解除できる。

〔設問2〕

1、Aは、瑕疵担保責任による解除権に基づき本件請負契約を解除した上で、契約の消滅を主張し、Bの請負残代金請求を拒否することができるか(635条)。

(1)635条は、債務不履行責任の特則である。「瑕疵」とは、引渡までに生じた瑕疵を指す。

住宅は、人の居住が予定されているものであることから、通常、防水工事が適切に行  われているものである。Bが完成させた本件住宅は、屋根の防水工事の手抜きという「瑕疵」が認められ、かかる瑕疵は受渡前に生じたものである。

(2)本件住宅は、大雨が降れば雨漏りが発生するものである。甲は、住宅として本件住宅を使用する目的で本件請負契約を締結している。屋根に防水工事の手抜きがある本件建物では、「契約をした目的を達成することができない」。

(3)635条但書が建物建築請負契約の解除を禁止した趣旨は、原状回復による社会経済的不利益を回避するところにある。ゆえに、建物に重大な瑕疵があるために建て替えざるを得ない場合には、635条但書の趣旨が及ばないため、建物建築請負契約であっても解除することができると解する。

   本件請負契約は、建物建築請負契約であることから解除できないのが原則である。もっとも、防水工事の瑕疵が重大で、本件住宅を建て替えざるを得ない場合には、契約を解除することができる。

2、本件請負契約が解除できない場合、Aは、Bに対して、防水工事手抜きの瑕疵を修補するまで請負残代金を支払わないと主張する。但し、瑕疵が重大ではなく、修補に過分の費用を要するときはこの限りでない(634条1項、2項、533条)。

3、請負人の担保責任は、無過失責任である。Aには、屋根の補修工事に要する費用100万円の「損害」が生じており、かかる損害は、本件住宅の「瑕疵」に基づくものである。ゆえに、Aは、Bに対して、100万円の損害賠償請求権を有する(634条2項)。

  Aは、Bに対し、上記100万円の支払いと請負残代金支払いの同時履行の抗弁権を主張することができる。

4、Aには50万円の「損害」が生じており、かかる損害は、屋根の手抜き工事というBの「過失」に「よって」生じたものである。ゆえに、Aは、Bに対して、50万円の損害賠償請求権を有する(709条)。

  Aは、Bの請負残代金支払請求に対して、上記損害賠償請求権との相殺(505条1項)を主張できる。

5、Aは、Bに対する上記100万円の損害賠償請求権と請負残代金支払請求権の相殺を主張できるか。

  同時履行の抗弁権が付着した債務は、原則として「性質が」相殺を「許さない」ものである。

もっとも、請負人の担保責任に基づく損害賠償請求権と報酬支払請求権は、相殺を認めた方が当事者双方の便宜と公平にかないまた、相手方に不利益を生じさせることもないことから、相殺が認められると解する。

  Aは、Bに対する請負人の担保責任に基づく100万円の損害賠償請求権と報酬支払請求権との相殺を主張することができる。

以 上

 

平成22年 旧司法試験 民法

〔設問1〕

第1、(1)について

1、Bは、Aに対し、不当利得返還請求権に基づき、500万円の不当利得返還請求を行うことができる(703条)。以下その理由を示す。

(1)Aは、「他人」Aの「財産」である500万円を受け取ることにより、500万円の「利益」を受けている。

(2)Aに500万円を渡すことにより、Bには、500万円の「損失」が生じている。

(3)Aの受益がなければBの損失も無かったことから、Aの受益の「ために」Bには上記損失が発生している。

(4)個人の自由な意思に基づいて法律行為を行えるとする「私的自治の原則」(90条)は、意思表示、すなわち、「事理を弁識する能力」(7条)を前提としており、意思無能力者は、単独で有効に法律行為を行えない。

本件売買契約当時、Aは、事理弁識能力を欠く意思無能力者であるため、本件売買契約は、無効である。

ゆえに、Aの利益について「法律上の原因」は認められない。

2、以上により上記結論に至る。尚、Aは、甲絵画をBに戻しているため、Bは、同時履行の抗弁権の適用・類推適用を主張することはできない(533条)。

3、法律行為の「無効」は、何人でも主張できるのが原則である。もっとも、意思無能力による無効の主張は、表意者保護を目的とするものであることから、例外的に、意思無能力者本人からしか主張できない。

よって、Bの方から本件売買契約の無効を主張することはできない。Bは、Aに対して、甲絵画の返還請求を行えない。

第2、(2)について

1、Aは、Bに対して、不当利得返還請求権に基づき、500万円の返還請求を行う。これに対し、Bは、甲絵画と引き換えでなければ500万円を返還しないと反論する(533条)。かかる反論は正当か。

(1)同時履行の抗弁権は、明文上「双務契約」の存在を求めている。本件売買契約は無効であることから、本件に「双務契約」の存在は認められない。ゆえに、533条の直接適用はない。

(2)もっとも、同時履行の抗弁権は、当事者の公平を趣旨とするため、当事者の公平を図るべき「特段の事情」が認められる場合には、533条を類推適用できると解する。

意思無能力者の行為態様は、通常、外観から明らかに不自然であり、僅かな注意を払えば気づきえる。Aは、Bの言うままに、甲を購入している。Bには、Aの意思能力の不存在につき注意を払わなかった帰責性が認められる。

他方で、Aの責めに帰すことができない事情により甲は滅失している。ゆえに、Bの反論を認めると、本件売買契約を有効とするのと同じ結果となり、意思無能力者保護を図ろうとする民法の趣旨(7条以下)に反する。

よって「特段の事情」は認められない。

2、以上によりBの反論は失当である。AのBに対する請求は認められる。

尚、危険負担(534条以下)は、契約の成立を前提とした規定であるため、契約そのものが原始的無効の場合に、適用・類推適用をすることはできない。

〔設問2〕

1、単独で有効に法律行為を行う地位・資格のことを行為能力といい、人は年齢20歳をもって、行為能力者となる(4条、5条1項)。

成年被後見人」とは、後見開始の審判を受けた者を指す(8条)。

本件売買契約当時、Aは「被後見人」に当たらない。本件売買契約の締結は「被後見人の法律行為」には当たらず、取消権は発生しない(9条)。

Cは、本件売買契約を取り消すことはできない。

2、表意者保護の観点から意思無能力の主張は本人からしかできないのが原則であるが、被後見人は、財産に関する法律行為につき「本人」を「代表」する者であるため、本人を代表し意思無能力の主張ができる(859条1項)。

Cは、Aの意思無能力を理由に本件売買契約の無効を主張できる。

3、成年被後見人は、追認能力を有さないが(124条2項反対解釈)、これは、成年被後見人保護の観点から追認権行使に制限を加えたに過ぎず、追認権自体が無いとする規定ではないと解する。

ゆえに、後見人Cは、被後見人Aを代表し、本件売買契約を追認できる(859条1項)。

以 上

平成14年 旧司法試験 民法

〔設問1〕

第1、(1)について

1、Bは、祖父から贈与により甲地の所有権を取得しており、Cは、甲土地の登記を有することにより、甲土地を占有している。

Bは、Cに対し、所有権(206条)に基づき、甲土地の返還請求を主張する。

2、これに対して、Cは、売買契約により甲土地の所有権を取得しているため、Bの請求は、失当であると反論する。以下その理由を示す。

(1)Aは、Cに対し、甲土地を500万円で売却している(555条)。

(2)Aは、上記売買契約の際、Bの法定代理人であると「顕名」(99条1項)をしている。

(3)本件売買契約当時、Bは、18歳の未成年であるため、親であるAの親権に服する(818条1項)。ゆえに、Aは、親権に基づき、子Bの財産について包括的代理権を有する(824条)。

もっとも、利益相反行為についてはこの限りでない(826条1項)。826条の趣旨は、子の財産保護と取引安全にある。

ゆえに、「利益が相反する行為」に当たるかは、外形的・客観的に決する。

親が子の財産を売却したとしても、売却利益は法的に所有者たる子に帰属する。本件売買契約は、外形的・客観的にみて、AB親子の利益が相反するものとは言えない。

ゆえに、Aは親権に基づき、本件売買契約の代理権を有する。

(4)Aは、妻と共同して本件売買契約を締結している(818条3項)。

(5)以上により上記結論に至る。

2、もっとも、A夫婦は、売却利益をAのDに対する債務の弁済に充てるために甲土地を売却したのであり、これは、子の利益保護を目的とする親権の趣旨に反する(820条)。

ゆえに、Aによる上記2(3)の代理権行使は、代理権の濫用であり無効である。

3、代理権濫用は。経済的利益の帰属について、本人の利益を図ることではなく自己の利益を図ることにあることから、心裡留保に類似している(93条)。ゆえに、相手方が権限濫用について「知りまたは知ることができた」場合には、93条を類推適用し、代理権濫用による無効を主張できる。

Cは、Aが売却利益を自己のDに対する債務の弁済に充てることを知っていた。ゆえに、Bは、Cに対し、代理権濫用による無効を主張できる。

4、以上によりBは、Cに対し、上記請求を行える。

第2、(2)について

1、BC間に契約関係は存在しないため、契約上の請求は考えられない。

2、本件売買契約は無効である。Bは「法律上の原因なく」Cの「財産によって」500万円の「利益を受け」、そのためにCには「500万円」の「損失」が発生している。

もっとも、Bは「法律上の原因」について善意であり(704条)、受け取った500万円は、AのDに対する債務の弁済により消滅しているため、Bの「利益の存する限度」額は0である。

ゆえに、Cは、Bに対して、500万円の不当利得返還請求を行えない(703条)。

3、また、Cの損害についてBに「故意又は過失」も認められない(709条)。

4、以上によりCは、Bに対して、500万円の支払いを請求することはできない。

尚、こう解しても、Cは、Aに対して不法行為等の規定によって500万円を請求することができるため、公平の観点からも問題ない。

〔設問2〕

1、Bは、Dに対し、不当利得返還請求権に基づき、500万円の支払請求をすることができる(703条)。以下その理由を示す。

(1)A夫婦は売却代金をBの教育資金に用いるつもりで甲土地を売却しており、かかる売却は代理権濫用とはいえないため、AD間の甲土地の売買契約は有効である(824条)。

Cは、「他人」Bの「財産」である甲土地売買代金により、債権弁済の「利益」を受けている。

(2)「成年」Bは、Aに対し、Aが親権に基づき管理している甲の売却代金の引渡請求権を有する(828条)。しかし、Aは、Dに対する債務の弁済により無資力となっている。ゆえに、BのAに対する売却代金引渡債権は不良債権である。

Bには、500万円の「損失」が生じている。

(3)Dの受益がなければBの損失も無かったことから、Dの受益「のために」Bに上記損失が発生している。

(4)不当利得は、当事者間の実質的公平の実現を趣旨とする。ゆえに、財産的価値の移動をその当事者間において正当なものとするだけの実質的・相対的な理由がない場合には、「法律上の原因」がないと解する。

債権者が他人の財産によって弁済を受けたことにつき悪意であれば、実質的・相対的に財産的価値の移動を正当化する理由がない。

Dは、甲土地の売却代金により弁済を受けていることにつき悪意である。ゆえに、Dの利得には「法律上の原因」が認められない。

2、以上により上記結論に至る。

以 上

平成28年 刑事系第2問

〔設問1〕

第1、事実2について

1、Pは、甲の進行方向正面に立ち進路を塞ぎ、甲の移動の自由(憲法22条1項)へ対して制約を加えているが、甲は、いずれも自己の意思で甲車に戻っている。Pによる留め置きは、甲の意思を抑圧するものではないため、「強制の処分」(197条1項但書)には当たらない。

2、任意捜査でも何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるため、捜査比例の原則(憲法13条)に照らし、捜査の必要性、緊急性を加味し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許されると解する。

(1)甲には覚せい剤取締法違反の前科があり、目の焦点が合わず異常な量の汗を流すなど、覚せい剤使用者特有の様子が見られた。また、甲には左肘内側に赤色の真新し注射痕がみられ、甲は所持している注射器の提示を不自然なまでに拒否している。

ゆえに、甲は、所持していた注射器で覚せい剤を自身の左肘に打ち、覚せい剤反応により覚せい剤使用者特有の症状が現れていると考えられる。覚せい剤使用者は、幻聴等により暴走し、市民に危害を加える危険性がある。また、覚せい剤使用者の再犯率が高いということは公知の事実である。

ゆえに、Pには、甲を留め置き、捜査する「必要性」があった。

(2)Pは、二度に渡り甲の進路を塞いでいるが、その態様は、甲の目の前に立っただけであり、甲に対して何らかの有形力を行使したものではない。したがって、甲の移動の自由へ対する制約は極めて軽微である。

(3)留め置きを行う必要性に対し、制約の態様は軽微であることから、事実2の留め置き行為は、いずれも相当性を有する。

3、以上により、事実2の留め置き行為は、いずれも任意捜査として適法である。

第2、事実3について

1、胸部及び腹部を突き出して、甲の身体と接触し、甲車運転席まで押し戻す等の有形力を行使しているPによる留め置きは、「強制の処分」に当たる。以下その理由を示す。

(1)相手方の任意であれば「強制」とは言えず、また、197条1項は、憲法35条の令状主義の趣旨を受けて制定された規定である。

ゆえに、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、身体・住居・財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を達成する行為など、特別な根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する。

(2)Pによる留め置きは、甲の移動の自由等の憲法が保障する重要な権利に対して制約を加えるものである。

(3)「意思を抑圧し」とは、明示若しくは黙示の意思に反しという意味である。

甲に対する留め置きは、午前11時から開始されて5時間に及んでいる。通常人であれば、このような長時間に渡る留め置きを許容するとは考えづらい。甲は、Pから「令状が出るまで、ここで待っていてくれ。」と言われたのに対し、「嫌だ」と明確に拒絶の意思を表明している。さらに、甲は、その後「帰る」と言っている。ゆえに、甲は、明示的に本件留め置きを拒絶していると評価できる。

ゆえに、本件留め置きは、甲の明示の意思及びに明らかに反するものである。

2、以上により、Pによる甲の留め置きは、甲の意思を抑圧し、移動の自由に対して制約を加え、強制的に捜査目的を達成する「強制の処分」に該当する。

  そして、かかる留め置きを許容する法律上の定めはない。本件留め置きには令状主義の違法が認められる(197条1項但書)。

〔設問2〕

第1、①について

1、甲は、覚せい剤所持の被疑事実で現行犯逮捕され、「身体の拘束を受けている被疑者」である。ゆえに、甲には、弁護人との接見交通権が保障される(39条1項)。

2、もっとも、甲は起訴されていないため、検察官Sは、「捜査のために必要があるとき」は、接見交通権の日時等を指定することができる(39条3項)。

接見交通権の保障は、弁護人依頼権(憲法34条前段)等の被疑者の権利を実質的に確保する上で不可欠なものである。ゆえに、「捜査のために必要があるとき」とは、現に取調や弁解録取等の捜査手続中である場合等、捜査の中断による支障が顕著な場合を指すと解する。

Sが①の接見指定をした当時、甲は、現に弁解録取の手続中である。接見交通を認めると、弁解録取をやり直さなければならないおそれもあることから、捜査の中断による支障が顕著であるといえる。

  ゆえに、「捜査のために必要がある」ため、Sは、接見交通日時等の指定ができる。

3、もっとも、接見指定は、被疑者の防御権を不当に制限するものであってはならない(39条3項但書)。特に、初回接見は、身体拘束された被疑者が今後防御権を行使する上で重要な意味を持つものである。ゆえに、即時又は近接した時点での接見が可能かをまず検討し、可能であれば、比較的短時間であっても、即時又は近接した時点で接見を認めるべきである。

  Sは、9時50分のTから接見の申出に対して、弁解録取手続終了までに30分を要し、H警察署に移動するのに30分を要することから、約1時間後の11時という近接した時点で、Tの指定したH警察署での接見を認めている。また、これに対して、Tから特段の異議もない。ゆえに、①の接見指定は、甲の防御権を不当に制限するものではない。

4、以上により、①の措置は適法である。

第2、②について

1、甲は、Sに対して、「お話したいことがある」と言い自白をしようか迷っている。甲は、一貫して容疑を否認していた者であることから、ここで取調を中断すると、甲から自白を得る機会を失う可能性があり、そうなった場合、「捜査の中断による支障が著しい」といえる。ゆえに、②を行う「必要性がある」といえる。

2、もっとも、接見交通日時の変更は、接見交通日時の指定により一度制約された弁護人依頼権等の被告人の防御権に対して、更に制約を加えるものである。したがって、一度指定された接見交通の日時を変更することは、防御権を制約される被疑者や、弁護人となろうとする者の同意がなければ許されないと解する(39条3項但書)。

  弁護人Tは、②の措置に対して、「予定通り接見したい。」と主張して譲っていない。また、実際問題として、有罪判決を受けたら刑務所に行く可能性のある甲と弁護人を接見させる必要性も高い。ゆえに、②の措置は、甲の防御権を「不当に制限するようなもの」であり違法である。

〔設問3〕

1、供述過程には誤りが入る危険性があるため、反対尋問や供述態度の観察等により、その内容の真実性が担保されなければ証拠能力を認めるべきではない。

  ゆえに、法は、公判期日外の供述を内容とする公判廷における供述または書面で、その内容の真実性が問題となるものの証拠能力を認めないとした(320条1項)。内容の真実性が問題になるか否かは、要証事実との関係で相対的に決せられる。

2、資料③部分は、「公判期日外の他人乙の供述」を内容とする証人甲の供述であり、本件争点は、平成27年6月28日に、乙方において乙が甲に覚せい剤を譲り渡したか(争点①)、その際、乙に、覚せい剤であるとの認識があったか(争点②)の二点にある。

  資料③部分は、「お前が捕まったら、俺も刑務所行き」を内容とする。甲に渡したものが違法な薬物であると乙が認識していなければ、資料③の発言をすることは考え難い。ゆえに、資料③は、その存在自体により、乙が甲に覚せい剤を渡したことを認識していたと推認させるものである。また、争点①については乙の自白調書により立証することができる。

  ゆえに、資料③は、争点②を立証するために用いられたものであり、その要証事実は、資料③の発言の存在である。ゆえに、資料③は、要証事実との関係でその内容の真実性は問題とならない。

3、以上により、資料③は伝聞証拠(320条1項)には当たらない。資料③の証拠能力は認められる(317条)。

〔設問4〕

わかりません。

 

平成28年 刑事系第1問

第1、乙の罪責について

1、Vの「住居」であるV方に立ち入った乙の行為は、管理権者Vの意思に反する「侵入」あるから、かかる行為につき住居侵入罪(130条前段)が成立する。

2、Vの顔面を数回殴り、本件ナイフを右ふくらはぎに刺した乙の行為につき強盗致死罪が成立する(240条後段)。以下その理由を示す。

(1)「暴行」(236条1項)とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる有形力の行使を意味する。

本件ナイフは、刃体の長さが約10センチメートルの殺傷力の高い武器である。従って、本件ナイフを用いて有形力を行使した場合、人は、生命の危険を感じ、反抗を抑圧されると評価できる。

ゆえに、乙の本件行為は、「暴行」に当たる。

(2)「他人」Vは、金庫内に「財物」である500万円を保管することにより占有している。

(3)「強取した」とは、反抗抑圧状態を利用することにより、その意思によらずに他人の占有物を自己又は第三者の占有に移すことを意味する。

   Vは、「暴行」により強い恐怖心を抱き反抗を抑圧された上で、乙に金庫と鍵の在処を教えている。乙は、Vの供述をもとに、鍵を取得し、本件金庫を開け、金庫内の500万円を持参したカバンの中に入れている。乙は、Vの犯行抑圧状態を利用し、Vの意思によらず500万円を自己の占有に移している。

乙は、500万円を「強取した」といえる。

(4)以上により、乙は「強盗」に当たる。

(5)Vは「死亡」している。

(6)Vの死因は、乙に顔面を蹴られたことにある。よって、乙は、Vを死亡「させた」と言える。

(7)「罪を犯す意思」(38条1項本文)とは、構成要件該当行為の認識を指す。強盗致死罪は強盗罪の結果的加重犯である。ゆえに、強盗の認識認容さえあれば、致死の結果につき認識が無くとも、強盗致死罪の故意に欠けるところはない(38条1項但書)。

   乙に強盗の故意に欠けるところはない。ゆえに、乙に強盗致死罪の故意に欠けるところもない。

(8)以上により上記結論に至る。

3、住居侵入罪は強盗致死罪の「手段」(54条1項)であるから、牽連犯として強盗致死罪に吸収される。

乙には、強盗致死罪の罪責が成立する。

第2、丙の罪責について

1、V方に立ち入った丙の行為は、Vの意思に反する立入であることから、かかる丙の行為につき住居侵入罪が成立する(130条前段)。

2、乙の強盗致傷罪につき丙は強盗罪の共同正犯の罪責を負う(60条)。以下その理由を示す。

(1)刑法が共同正犯を一部実行全部責任としている趣旨は、2人以上の者が共同し、他人の行為を相互利用補助することにより犯罪目的を達成するところに正犯性が肯定できるからである。

ゆえに、「共同して」と言えるためには、共同実行の意思が必要であり、「実行」とは、犯罪の実現につき本質的寄与を果たすことを指す。

(2)丙は事実2の時点において、乙から強盗を行うと聞いている。その上で、丙は、事実5において、乙から計画通りにVをナイフで脅し、金庫の在処を聞き出したと聞かされている。ゆえに、丙は、乙が強盗を行ったと認識していたと評価できる。その上で、丙は、乙の犯行を手伝うことを了承している。

ゆえに、丙は、乙と強盗の現場共謀を行っている。丙は、強盗罪を「共同」したと言える。

(3)丙は、右ふくらはぎから血を流して床に横たわっているVを認識し、簡単に現金を奪えると思い、乙から分け前も貰えると聞いたこともあり、乙の作り出したVの反抗抑圧状態を積極的に利用し、金庫内の現金を「強取」している。ゆえに、丙は、強盗罪の実現につき本質的寄与を行ったと評価できる。

丙は強盗罪を「実行」している。

(4)以上により上記結論に至る。

3、尚、加担してない行為により発生した結果を帰責することは、行為処罰の原則にも反し相当でないため、いわゆる承継的共犯は認められるべきではない。

乙の強盗「致死」部分については、丙が「共同」する以前の暴行により発生したものである。ゆえに、強盗「致死」部分について丙に帰責することはできない。

丙に強盗致死罪の共同正犯は成立しない。

4、住居侵入罪は強盗罪の共同正犯の「手段」であるためこれに吸収される。丙には、強盗罪の共同正犯の罪責が成立する。

第3、甲の罪責について

1、甲は、乙に対し、V方に強盗するように指示し、乙はこれを了承している。甲は、乙と、強盗を「共同して」いる。甲は、某組の組長に次ぐ立場の人間である。甲は、組合員である乙に対して、Vに強盗するように指示をした者であり、乙に対して3万円を渡し、これでナイフ等強盗に必要な物を購入するよう指示し、乙は、これを実行している。ゆえに、甲は、乙の強盗致死行為につき本質的寄与を果たしている。甲は、強盗致死罪を「実行」している。

  甲は、強盗致死罪の共同正犯の罪責を負う(60条)

2、尚、甲は、乙に対し、強盗の実行を止めるよう指示しているが、共犯関係の解消は認められない。以下その理由を示す。

(1)共同正犯の処罰根拠は、共謀と犯罪の実行と因果性にある。ゆえに、共犯関係の解消が認められるためには、共謀と犯罪との心理的・物理的因果性を解消させなければならない。

(2)甲は、乙に3万円を渡し、ナイフを購入させる等の行為を行っている。本件ナイフは、犯罪の実現につき本質的寄与をなした凶器そのものである。ゆえに、少なくとも、本件ナイフを回収しなければ甲乙の共謀と犯罪との物理的因果性は解消されない。

(3)甲は、ナイフを回収していない。ゆえに、甲乙間に共犯関係の解消は認められない。

(4)以上により上記結論に至る。

3、甲には、強盗致傷罪の共同正犯の罪責が成立する。

第4、丁の罪責について

1、Vの意思に反しV方に立ち入り「侵入」した丁の行為に住居侵入罪が成立する(130条後段)。

2、「他人」Vの所有する本件キャッシュカードは、現金の引き出しに利用する「財物」である。ゆえに、本件キャッシュカードをポケットに入れ「窃取」した丁の行為につき、窃盗罪が成立する(235条)。

3、相手方の反抗を抑圧するに足りない程度の脅迫であっても、既に反抗抑圧状態にある被害者を認識した上で、かかる状態を維持するものであれば、実質的に相手方の反抗を抑圧する程度の「暴行」と言える。

丁は、Vが横たわり恐怖で顔を引きつらせ反抗抑圧状態にあることを認識し、強く迫れば容易に暗証番号を聞き出せると考え、「暗証番号を教えろ」と強い口調で言っている。かかる行為は、これ以上暴行を受けたくないと考えるVの反抗抑圧状態を維持するものと評価できるため「脅迫」に当たる。丁は、Vから、暗唱番号という「財産上不法の利益」を得ている。

ゆえに、Vの脅迫行為につき、強盗罪が成立する(236条2項)。

4、Y支店がATMで管理し占有している1万円をY支店の意思に反し引き出し自らの占有に移し「窃取」した丁の行為につき、Y支店に対する窃盗罪が成立する。

5、丁には、住居侵入罪、キャッシュカードの窃盗罪、強盗罪、Y支店へ対する窃盗罪が成立する。

住居侵入罪はキャッシュカードの窃盗の「手段」であるため、これに吸収され、キャッシュカードの窃盗罪は、Vに対する強盗罪と包括一罪の関係に立つ。

丁には、強盗罪及び窃盗罪の罪責が成立し、それぞれの罪につき併合罪となる(45条)。

以 上

平成28年 民事系第3問

〔設問1〕

1、個々の訴訟において、当事者として訴訟を追行し、判決などの名宛人となることにより、有効な紛争解決をもたらすことができる地位のことを「当事者適格」という。当事者適格は、判決の効力との関係で無駄な訴訟を排除し、もって、訴訟経済の向上を図ることを目的として設けられた概念である。

  「判決」とは、訴訟物たる権利義務の有無の判断であり、判決の効力は「当事者」(133条2項1号)に及ぶ(115条1項)。判決は、実体法上の処分に準じる効力を有するため、私的自治の観点(民法90条)から、訴訟物について管理処分権を有する者に当事者適格を認めることが相当である。

  民法上、権能なき社団(29条1項)の財産は、構成員の総有となる。したがって、個々の構成員は、持分権がなく、社団の財産につき管理処分権を有さない。ゆえに、権利能力なき社団の財産につき訴訟を提起する場合、原則として、構成員全員が当事者となって訴訟を提起しなければならない固有必要的共同訴訟(40条1項)となる(28条)。もっとも、内部の規約等に従い、構成員のひとりに他の構成員が訴訟追行の授権をした場合には、授権された構成員に管理処分権が与えられるため、この者に当事者適格が与えられることになる(最判平6.5.31)。

  Xは、法人格を取得していない団体である。ゆえに、Xの構成員がYに対して本件不動産の総有権の確認訴訟を提起するには、原則として、全員が当事者として原告とならなければならない。

2、当事者適格は、訴訟要件である。ゆえに、Xの構成員の中にひとりでも訴えの提起に反対する者がいると、本件総有権確認訴訟は、訴え却下となる。もっとも、法人格なき社団が訴えを提起するには、構成員全員の同意が常に必要となると、実際問題として、法人格なき社団の構成員の裁判を受ける権利(憲法32条)の保障の観点から宜しくない。

そもそも、管理処分権を有する者に当事者適格を認めた趣旨は、管理処分権者について手続保障を与えることにより、自己責任として「判決の効力」を甘受させ、もって紛争解決の実効性を確保しようとしたところにある。したがって、構成員全員に手続保障が与えらさえいれば、当事者適格の趣旨に反しない。ゆえに、権能なき社団の構成員に訴えの提起につき反対する者がいた場合であっても、その者を、被告として訴訟に当事者参加させ、手続保障を与えれば、当事者適格は認められると解する。

Xの構成員の中に、本件総有権確認の訴に反対する者がいた場合、その者は被告として当事者に加え、訴えを提起すればよい。

3、訴訟要件の有無は、口頭弁論終結時を基準に決せられる。したがって、新たにXの構成員となる者が現れ、その者が訴えに同調する場合には、口頭弁論終結時までに原告として当事者に加えればよい。同調しない場合には、その者を被告として、総有権確認の訴を提起した上で、弁論の併合の申し立てを行う(152条1項)。

〔設問2〕

1、訴えの利益とは、判決を貰うことで紛争を解決する正当な利益を意味する。確認の訴えは、確認の対象が無制限であるため、紛争解決の実効性確保の観点から訴えの利益の有無を考える必要がある。

まず、過去の権利関係の確認を求めるよりも現在の法律関係の確認を認めた方が紛争解決に資するため、確認の対象は、現在の法律関係でなければならない(対象選択の適否)。そして、確認訴訟は、執行力を持たない点で、給付訴訟や形成訴訟よりも紛争解決としては迂回な手段であるため、他の訴訟形式では紛争を解決できないときに初めて認められるべきである(方法選択の適否)。また、紛争が現実化していなければ、判決を受ける実益が無いので、紛争が成熟化し即時確定の必要性が無ければならない(即時確定の利益)。

判例は、訴訟代理権の存否確認の訴を不適法としているが、これは、訴訟代理権の存否のような訴訟要件の有無の確認は、実体法上の争いではなく手続上の争いに過ぎないため、本案中で判断すれば足りるものであることから、即時確定の利益が無いとして確認の利益を否定したものであると考える。

本件地位確認訴訟や解任決議無効確認訴訟は、実体法上の争いであることから、判決で解決すべき性質を持つ。ゆえに、即時確定の利益が認められる。

また、両訴訟は現在の法律確認の訴えであり、確認訴訟以外に適切な方法もないため、対象選択、方法選択ともに認められる。

よって、両訴訟は、確認の利益が認められる。

2、反訴(146条)は、原告が中間確認の訴え(145条)を提起できるのに対応し、被告側からも関連する争いにつき一挙にまとめて判決を貰うことを目的とした制度である。ゆえに、本訴の訴訟資料を流用できる場合には、「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求」に当たると解する。

  BがXの代表者であれば、第1訴訟の請求は認容される。そして、本件両反訴は、ともにZがXの代表者であれば認容判決が貰える。そうすると、第1訴訟、両反訴ともに争点は、Xの代表者は誰かというところにある。ゆえに、第1訴訟の訴訟資料は両反訴でも流用することができる。両反訴は、「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求」に当たる。

  また、両反訴に専属管轄の規定はなく、反訴の提起により著しく訴訟を遅延させるともいえない(146条1項各号)。

  以上により、適法に反訴を提起することができる。

〔設問3〕

1、平成6年判例は、法115条1項2号を適用することにより、社団の構成員全員に対して判決の効力を及ばせたものであると考えられる。もっとも、法115条2項の正当化根拠は、「当事者が他人のために原告となった場合のその他人」は、当事者によって代替的手続保障がなされたことにある。

Zは、第1訴訟において原告Xと対立関係にあった被告であることから、第1訴訟においてXとZの利益は非両立の関係にある。ゆえに、第1訴訟において、原告の訴訟行為によりZに代替的手続保障があったとすることはできない。

①よって、Zに法115条1項2号を適用することはできない。もっとも、Zは「当事者」(115条1項1号)として、判決の効力を受ける。

2、既判力とは、判決の有する強制的通用力を意味し、主文に抱合するもの、すなわち、訴訟物の存否について生じる(114条1項)。既判力の正当化根拠は、手続保障による自己責任にある。

当事者は、口頭弁論終結時まで訴訟行為を行うことができる。ゆえに、既判力は、口頭弁論終結時を基準時として効力を生じる。

第1訴訟は、Xの本件不動産の所有権及びYに対する抵当権抹消登記手続請求権を訴訟物し、これが認容されている。ゆえに、既判力は、第1訴訟口頭弁論終結時を基準時として、かかる訴訟物の存在に生じる。

  そして、第2訴訟におけるZの主張は、第1訴訟口頭弁論終結時以前に、Zが本件不動産の所有権を有していたとするものであることから、第1訴訟の既判力に何ら抵触するものではない。

  ゆえに、②第2訴訟におけるYZの主張の対立点について第1訴訟の既判力は作用しない。

3、第1訴訟のあいうえおかきくけこ「信義則」によって社団できる私はえた考えぴーひゃら。

以 上

 

最後の設問は全くわかりませんでした。

平成28年 民事系第2問

〔設問1〕

第1、(1)について

1、会社法は、取締役会の瑕疵について規定していないが、法の一般原則に従い、瑕疵ある取締役会決議は、原則として無効である。もっとも、法的安定性の確保の観点から、瑕疵が決議の結果に影響を与えていないと認めるような「特段の事情」があるときは、瑕疵ある取締役会決議であっても有効になると解する。

(1)甲社は、取締役会招集権者についての定めていないため、取締役Bは、本件臨時取締役会を招集する権限を有しているが(366条1項)、Bは、取締役Aに対する招集通知を行っていない。ゆえに、本件臨時取締役会には368条1項の瑕疵が認められる。

(2)会社法が「特別の利害関係を有する取締役」の議決権を制限した趣旨は、特別な利害関係を有する取締役には忠実義務(355条)に従った公正な議決権行使を期待できないからである。

解職対象の代表取締役は、決議の結果のより自身の地位が左右される者であるため、会社の利益より自分の保身に走る危険性が高い。ゆえに、解職対象の代表取締役は、特別利害取締役に当たる。

本件臨時取締役会は、Aを代表取締役から解職することを議案とするものである。ゆえに、Aは、本件臨時取締役会において特別利害取締役に該当する。

ゆえに、Aは、本件臨時取締役会で議決権を行使できない。もっとも、法は、特別利害取締役の決議参加自体は禁止していない(369条2項反対解釈)。

本件臨時取締役会決議は、賛否3対2の僅差で可決されている。したがって、Aが決議に参加し、弁明をしていれば、1人が翻意し、決議が否決されていた可能性がある。ゆえに、本件瑕疵が決議の結果に影響が無いものと評価することはできない。

本件瑕疵に「特段の事情」は認められない。

2、以上により、本件臨時取締役会決議は無効である。

第2、(2)について

1、Aは、甲社に対し、月額50万円の報酬を請求できる。以下その理由を示す。

(1)取締役の報酬等を原則として株主総会で定めるとした趣旨は、いわゆるお手盛り防止にある(361条1項)。総額の最高限度を決定すれば、お手盛りは防止できる。ゆえに、株主総会決議によって、取締役の報酬等の総額の最高限度額を定め、その範囲内で、取締役会の決議で役職ごとによって定められた一定額を支払うといった甲社の運用は、適法である。

   そうすると、Aは代表取締役を解任され取締役となっているので、甲社の運用に従い、月額50万円の報酬支払請求権を取得する。

(2)そして、取締役は、会社と委任関係にあるため(330条)、報酬金額が具体的に定められた場合、会社と取締役間の契約内容として双方を拘束する。ゆえに、一度定められた報酬額を会社側が一方的に減額することは原則として許されない。もっとも、取締役の明示又は黙示の同意がある等の「特段の事情」が認められる場合には、契約自由の原則により減額することも可能であると解する(民法90条)。

   Aの報酬を50万円から20万円に減額する決議について、Aは同意したわけでも、賛成票を投じたわけでもない。よって「特段の事情」は認められない。

   ゆえに、本件減額決議は、法的に何ら効果を持たない事実行為にすぎない。

2、以上により上記結論に至る。

〔設問2〕

第1、(1)について

1、甲社は、Aに対し、4800万円の損害賠償責任を負う(339条2項)。以下その理由を示す。

(1)Aは、取締役を「解任された者」に当たる。

(2)Aは、海外事業の失敗を理由として取締役を解任されているが、事業にはリスクが伴うものであるため、事業失敗を直ちに解任の「正当な理由」とすることは経営判断の原則の観点から相当ではない。

事業を行うについて情報の収集・調査に不注意な誤りがあったか、その情報に基づく意思決定の過程に通常の経営者として著しく不合理な点が無かったかどうかという観点から個別具体的に「正当な理由」の有無を決するべきである。

Aは、海外事業を展開する際に、必要かつ十分な調査を行い、その調査結果に基づき、事業の海外展開を行うリスクも適切に評価していた。そうすると、Aを解任するについて甲社に「正当な理由」があると評価することはできない。

「正当な理由」は認められない。

(3)339条2項は、故意・過失を要件としていない会社に課された法定の責任である。ゆえに、「損害」とは、 残存期間中と任期満了時に得られたであろう利益の喪失による損害を意味する。

Aには取締役としての任期が8年間残っていたため、解任されていなければ、総額4800万円の報酬を得ることができた。Aは、「解任に」「よって」報酬額の合計4800万円の「損害」が生じている。

2、以上により上記結論に至る。

第2、(2)について

1、Bは、甲社株式を20%保有しているため、甲社の総株主の議決権の3%以上を保有する株主である。ゆえに、①Bが、甲社の株主として、訴えをもってAの取締役解任を請求する手続としては、株式会社の役員の解任の訴え(854条1項1号)が考えられる。

2、役員解任の訴えを提起するには、役員解任の議案が「否決」されなければならない(854条1項本文)。

②Aが甲社の株主数名に対し、定時株主総会を欠席するように要請し、定足数を満たさず流会となった場合、「否決」の要件を満たさないのではないか。

(1)役員解任の訴えは、役員解任につき過半数の議決権を有さない少数株主を保護するための制度であると考える。ゆえに、「否決」とは柔軟に解釈するべきであり、形式的否決のみならず実質的否決までも含む概念であると解するべきである。

(2)仮に甲社の定時株主総会が開催されていたとして、Aが根回しした総議決権の過半数を有する株主(309条1項)がAの解任について反対票を投じた場合、A解任議案は否決されることになる。ゆえに、本件流会は、実質的にA解任について「否決」されたものであると評価することができる。

(3)以上によりAの解任議案は「否決」されている。

〔設問3〕

第1、①について

1、甲社は資本金額20億円の大会社(2条6号イ)である。甲社は、下請会社との癒着防止を目的とし、上場企業と同等の社内規則を設けている。ゆえに、本件に内部統制システムの構築義務違反はない(362条5項)。

2、Cは、本件規則に従い、本件通報後、直ちに法務・コンプライアンス部門に調査を指示している。ゆえに、Cに内部統制システムの運用義務違反はない。

3、Cに任務懈怠は認められない。ゆえに、Cは甲社に対して何ら責任は負わない(423条1項)。

第2、②について

1、本件請負工事の合理的代金は1億5000万円である。甲社は本件下請工事に2億円を支払っている。ゆえに、甲社には差額5000万円の「損害」が生じている。

2、実名による通報は信ぴょう性がある。Cは、本件通報に対し何らかの措置を取るべきであった。Cは何ら措置を行っていない。Cには任務懈怠が認められる。

3、Dに本件報告があったのが3月末日であるが、その時点では、甲社は乙社に対し既に1億7000万円を支払っていた。3000万円の損害についてはCの任務懈怠に「よって」生じたと言える。

4、以上より、Cは甲社に3000万円の損害賠償責任を負う(423条1項)。

以 上