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平成22年 旧司法試験 憲法

第1、結論

 「洗髪するための給湯可能な設備(以下本件洗髪設備)を設けることを義務付ける」ことを内容とするA県の条例(以下本件条例)は、理容業務の自由(22条1項)を侵害し、違憲である。

第2、理由

1、権利保護

 憲法は、職業選択の自由(22条)を保障しているが、自ら選択した職業を遂行できなければ意味がない(22条1項)。ゆえに、職業選択の自由は、自己の選択した職業を自由に遂行することのできる営業の自由を保障し、その一内容として理容業務の自由をも保障している。

2、制約

 本件条例は、理容師法(以下法)12条第4項に基づき制定されたものであり、その内容は、理容所の開設者に対し、本件洗髪設備の設置を義務付けるものである。ゆえに、本件条例は、理容業務の自由に対して制約を加えるものである。

3、制約の合憲審査基準

(1)二重の基準論

 経済的自由へ対する制約は、民主制の過程が正常に機能していれば、不当な制約を除去・是正することができ、また、立法府の専門的判断を尊重する必要もある。ゆえに、経済的自由へ対する制約は、精神的自由と比較して、より緩やかな基準で審査されるべきである(二重の基準論)。

 具体的には、立法目的が正当であり、かつ、手段と目的との間に合理的関連性があれば足りる。

(2)権利の重要性

 もっとも、職業は、生計を成り立たせていく上で必要不可欠なものであり、人の人格形成に与える影響も大きく、個人の尊重の観点からも重要な社会的活動である。ゆえに、職業選択の自由から導かれる理容業務の自由の権利の価値は、低いとは言えない。

(3)制約の程度

 また、本件条例は、理容業務そのものを禁止するものではないが、本件条例に違反した場合には、法12条4号違反として法14条に基づき、有期営業停止命令を受ける可能性がある。ゆえに、理容所を開設するものとしては、本件条例に従う他なく、本件洗髪設備設置のための費用の支出等の負担を併せ考えると、本件条例が理容業務の自由へ対して加える制約は、強力なものであると言える。

(4)合憲性審査基準

 以上により、本件条例が合憲と言えるためには、立法目的が重要であり、手段と目的との間に実質的関連性が認められなければならないと解する。

4、本件条例の合憲性

(1)立法目的

 本件条例は、理容師が洗髪を必要と認めた場合や利用者が洗髪を要望した場合等に適切な施術ができるようにすることで理容業務の適正を確保するとともに、理容所における衛生確保により、公衆衛生の向上を図ることを目的とする。

(2)立法目的の重要性

 A県では、公共交通機関の拠点となる駅の周辺を中心に、簡易な設備で安価・迅速に散髪を行うことのできる理容所が多く開設されている。駅の周辺は、多くの人が集まるため、本件条例の立法目的は、重要である。

(3)実質的関連性

 もっとも、理容師が洗髪が必要と思えば、給湯可能な設備でなくとも、水とシャンプーとリンスがあれば衛生面の観点からも必要十分な洗髪を行える。ゆえに、理容業務の適正という観点から、本件洗髪設備が必ずしも必要とは言えない。

 また、理容は、人を清潔にすることはあっても不潔にするものではなく、頭髪の清潔は、理容所で洗髪することで保たれるものではなく、個々人の自己管理によって保たれるものである。ゆえに、本件洗髪施設が無くとも公衆衛生を害することは無く、また、本件洗髪施設の設置により公衆衛生が向上するとは限らない。

 以上により、本件条例の規制手段と目的との間には実質的関連性が認められない。また、洗髪施設の無い理容所の利用者が増加していることからも、本件条例は、国民の厳粛な信託(憲法前文)に応えるものではない。

5、よって、本件条例は、理容業務の自由を侵害し違憲である。

以 上



平成19年 刑事系第1問

第1、甲の罪責について

1、詐欺未遂罪について

 Aに対して、「未払分は120万円に留まらず、既に200万円になっている」等と嘘を言った上、Aから20万円を受け取った甲の行為につき詐欺罪(43条、44条、246条1項、250条)が成立する。以下その理由を示す。

(1)「欺いて」とは、一般人をして財物・財産上の利益を処分させるような錯誤に陥らせる行為を指す。

 交通事故加害者に対し、「被害者は、現在も仕事を休んで治療を続けている」「追加の治療費と休業補償分を加えると、未払分は120万円に留まらず、既に200万円になっている」と申し向ける行為は、一般人をして、損害が拡大していると錯誤に陥り、弁済を促すものであると評価できる。

 甲は、本件行為によりAを「欺いて」いる。

(2)「財物を交付」とは、財産上の利益の処分行為を意味する。Aは、甲に対して、自己の意思に基づき20万円を支払っている。

 Aは、甲に対して、「財物を交付」している。

(3)「させた」といえるためには、交付行為が錯誤に基づくものである必要がある。

 Aは、損害金が120万円に留まらず200万円に及んでいるものと誤信した上で、甲に対して上記交付行為を行っているが、かかる交付行為は、このまま損害金の支払いを拒否していると、甲乙両名らによって家族に危害を加えられるのではないかと「畏怖したことから」行ったものである。したがって、仮にAに損害額の誤信が無かったとしてもAは畏怖により上記交付行為を行っていたと評価することができる。

 ゆえに、上記交付行為と「欺い」た行為との間には条件関係が認められない。上記交付行為は、Aの錯誤に基づくものではないため、甲は、Aに財物を交付「させた」とは言えない。

(4)甲に故意(38条1項)に欠けるところは無い

(5)以上により上記結論に至る。

2、恐喝罪について(20万円)

 Aに対して「家族が事故に遭ってから、200万円を支払っておけば良かったと悔やんでも遅い」等申し向け、Aから20万円を受け取った甲の行為につき恐喝罪(249条1項)が成立する。以下その理由を示す。

(1)「恐喝」とは、相手方の反抗を抑圧するに至らない程度の暴行・脅迫を意味し、「脅迫」とは、相手方を畏怖させるに足りる害悪の告知を意味する。

 「家族が事故に遭えば」「事故にあってから、悔やんでも仕方ないぞ」等の発言は、黙示的に、家族へ対して危害を加えることを示唆するものと評価できる。そして、家族に危害が加えられるという事実は、一般人を畏怖させるに十分な害悪の告知である。

 甲の本件行為は「恐喝」に該当する。

(2)Aは、自己の意思に基づき「財物」である20万円を甲に「交付」している。

(3)恐喝罪の保護法益は、財産権及び意思決定の自由である。ゆえに、畏怖に基づく財物の交付が認められる場合には、財物を交付「させた」と言える。

 Aは、このまま損害金の支払いを拒否していると、甲乙両名らによって自己の家族に危害を加えられるのではないかと畏怖し、200万円を支払わなければならないと考え、甲に20万円を交付している。

 甲は、Aに20万円を交付「させた」と言える。

(4)甲に故意に欠けるところもない。

(5)以上により上記結論に至る。

3、恐喝罪について(100万円)

 Aに対し「残りを受け取りに来た」等申し向け、Aから100万円を受け取った甲の行為につき恐喝罪が成立する。以下その理由を示す。

(1)畏怖させた本人が、畏怖した人に対し、「金が無いなら借金してでも作ってもらおうか」と申し向ける行為は、害悪を加えることを黙示的に表示するものであると評価でき、また、一般人をして畏怖させるに十分な行為である。

 甲は、Aを脅迫し畏怖させた者である。ゆえに、本件行為は、「恐喝」に該当する。

(2)Aは、甲に対して「財物」である上記100万円を手渡し「交付」している。

(3)Aは畏怖して甲に100万円を交付している。甲は、Aに財物を交付「させた」と言える。

(4)恐喝罪は、財産権を保護法益とするため、明文の規定は無いが、「財産上の損害」が成立要件として必要である。

 Aは、甲に対し、Bへ対する損害賠償債務の弁済として100万円を渡していることから、財産上の損害は認められないようにも思えるが、恐喝罪は個々の財産を保護しているため、100万円の交付それ自体を「財産上の損害」とみるべきである。

 甲には、「財産上の損害」が認められる。

(5)甲に故意に欠けるところもない。

(6)以上により上記結論に至る。

4、横領罪について

 甲は、Bからの委託を受け、Aから100万円を受け取っている。ゆえに、甲は、「他人の物」である100万円を法律上「占有」しており、100万円うち50万円を自己のものとして浪費する行為は、不法領得の意思を発現する「横領」行為である。かかる行為に横領罪(252条1項)が成立する。

5、正当行為の成否

 刑法は、社会的相当性のある業務行為を「正当な業務による行為」として違法性を阻却するとしているが、欺罔行為や恐喝行為を用いての債権回収行為は社会的相当性を有しているとは言えない。甲の一連の行為について正当行為(35条)の適用はない。

第2、乙の罪責について

1、詐欺罪の共同正犯及び恐喝罪の共同正犯について

 甲の上記詐欺行為(第1の1)及び恐喝行為(第1の2)につき、乙に、詐欺罪の共同正犯及び恐喝罪の共同正犯が成立する(60条)。以下その理由を示す。

(1)共同正犯(60条)を一部実行全部責任とした趣旨は、2人以上の者が相互に他人の行為を利用補充し合って犯罪目的を達成するところに正犯性が認められるからである。ゆえに、「共同して」とは、共同実行の意思があることを意味する。

(2)甲は、乙に対し、「Bに生じた損害は120万円であるが、これに80万円を上乗せし、200万円を請求しよう」「脅かしてでも金を出させましょう」との旨を申し向け、乙はこれを了承している。乙は、甲と、詐欺罪及び恐喝罪を共同して実行する意思を有している。

 乙は、甲と「共同」している。

(3)乙は、Aに対し、「いつまで開き直っているつもりだ」等発言し、詐欺行為及び恐喝行為を「実行」している。

(4)以上により上記結論に至る。

2、共犯関係の離脱について(小問2)

 Aから20万円を受け取った後に、乙は、甲と共犯関係を解消しているため、甲の上記恐喝行為(第1の3)につき、乙に恐喝罪の共同正犯は成立しない。以下その理由を示す。

(1)共同正犯の処罰根拠は、共謀と犯罪との間に因果関係が認められるところにある。ゆえに、共犯者が寄与した共謀の危険を消滅させる事情が認められる場合には、共犯関係は解消されると解される。

 設問判例は、共謀の危険が消滅した客観的事情が認められないことから、共犯関係の解消は認められないとしたものであると読める。

(2)乙は、甲のかつての不良仲間の先輩格である。乙は、甲に対し、「俺は手を引く」と言い、更に、「お前もこの辺りで止めとけ」と甲に釘を刺しているだけでなく、「警察沙汰になったら、俺が迷惑することも忘れるな」と念押しまでしている。これに対し、甲は「わかりました」と述べている。

 このような客観的事情からすると、甲乙間の共謀による危険は、消滅したと評価できる。

(3)以上により上記結論に至る。

第3、甲乙の罪責について(小問1)

1、甲に成立する二つの恐喝罪は、包括一罪として処理される。甲には、詐欺未遂罪、恐喝罪、そして横領罪の罪責が成立し、恐喝罪は、意思決定の自由を保護法益としている点で詐欺罪と保護法益を異にする。

 ゆえに、詐欺未遂罪と恐喝罪は、併合罪(45条)として処理される。

2、乙には、詐欺未遂罪の共同正犯及び脅迫罪の共同正犯が成立し、それぞれの罪につき併合罪として処理される。

以 上

 

平成23年 民事系第1問

〔設問1〕

第1、(1)について

1、CのBに対する不当利得返還請求の論拠及び額は以下の通りである。

(1) 利益の存する限度

 Bは、甲の所有車である。甲の市場価格はCの内装工事により1億円から2億円に上昇している。Bは、Cの「労務」に「よって」甲の市場価値の上昇という「利益」を受けている。

 原告としては、Bは、Fに対し、甲を1億6000万円で売却しているので、上記利益は、6000万円の限度で「現存」していると主張する。

 これに対して、被告は、上記利益はDによるエレベーター設備の更新工事が寄与している部分も存在すると反論する。

 CDの報酬は、Cが5000万円、Dが2000万円であり、その比は5:2である。ゆえに、Bに生じた利益のうち約1700万円(6000万×2/7)はDの「労務」により生じたものである。

 Bに現存する利益は約4300万円である。

(2)損失

 Cは、Aに対して、2500万円の請負報酬支払債権を有し、Aは無資力である。Cには2500万円の「損失」が生じている。

(3)因果関係

 Cの労務が無ければ、Bに利益も生じなかった。Bの利益の「ために」Cに損失が及んでいる。

(4)法律上の原因

 原告は、Bの利益には「法律上の原因」がないと主張する。これに対し、被告は、不当利得の趣旨は、当事者間の実質的公平の実現であるため、「法律上の原因」の有無は、当事者間の権利関係を全体としてみて判断するべきであると反論する。

 Bは、Aに対して、Aが甲のエレベーター設置及び内装工事費を支出することを条件に、甲を、相場400万円の半額200万円で賃貸しており、さらに、最初の3か月分については賃料を免除している。ゆえに、Bに生じた利益4300万円のうち賃料3か月分1200万円については、「法律上の原因」が認められる。また、甲の賃貸借契約は、平成22年10月31日に解除されているため、Bに生じた利益のうち1800万円分についても「法律上の原因」が認められる。

 そうすると、Bに生じた利益4300万円のうち3000万円については「法律上の原因」が認められる。

2、以上により、Cは、Bに対し、1300万円の不当利得返還請求を行える(703条)。 

第2、(2)について

1、Cは、詐害行為取消権に基づき、AのFに対する敷金返還請求権放棄の意思表示を取消す(424条1項、2項)。以下その理由を示す。

(1)被保全債権

 被保全債権は、「債権者」Cが、「債務者」Aに対して有する2500万円の請負報酬支払債権である。

(2)財産権を目的とする法律行為

 詐害行為取消権は責任財産保全を目的とする。ゆえに、「法律行為」は被保全債権発生後に行われたものでなければならない。

 AのFに対する敷金返還請求権放棄の意思表示は、CのAに対する請負報酬支払債権発生後に行われた「法律行為」であり、また、「財産権を目的」とする。

(3)詐害行為性

 FのAに対する賃料債権は1200万円であり、敷金は2500万円である。敷金放棄をせずに、賃料を敷金により充当した方がAの責任財産は増加する。Aは自らが無資力であり、かつ、Cに対する請負残代金2500万円が未払いであることを知っている。

 Aは、F以外の債権者Cを「害することを知って」敷金放棄の意思表示をしたと評価できる。

(4)無資力要件

 詐害行為取消権は、私的自治への介入であるため、行使の必要性、即ち、詐害行為時及び取消時双方に債務者の「無資力」が必要であると解する。

 Aは詐害行為時から現在に至るまで「無資力」である。

2、以上により、上記結論に至る。

 Cは、詐害行為取消権を行使した上で、債権者代位権(423条1項)によりAに代位し、Fに対して敷金返還請求権を行使する。

3、尚、Fとしては、「転得の時において」「債権者」Cを害すべき事実を知らなかったと反論してくることが考えられるが、Fは、Aが敷金を放棄する際に、Aから、AのCに対する請負残代金未払いの事実を告げられているため、かかる反論は失当である。

〔設問2〕

1、Gは、履行不能による解除権に基づき、本件債権売買契約を解除する(543条)。以下その理由を示す。

(1)履行不能

 本件債権売買契約により、Fは、Gに対して、FがAに対して有することとなる平成23年1月分から同年12月分までの合計2400万円の将来賃料債権を譲り渡す債務を負う。

 AF間の賃貸借契約は平成22年10月31日付で解除されている。FのGに対する債務は「履行の全部が不能」になっている。

(2)帰責事由

 将来債権売買における売主は、当該債権の発生原因となる契約を解除した場合、買主を害することを当然に予見できるといえる。ゆえに、売主としては、契約を維持する等買主を害さないように配慮する取引上の注意義務がある。

 Fは上記義務を何ら行っていない。Fには過失が認められる。「債務者」Fの「責めに帰すべき事由」が認められる。

2、以上により上記結論に至る。

〔設問3〕

第1、(1)について

1、Hは、Aに対して、土地工作物責任に基づく損害賠償請求権に基づき、損害賠償請求を行う(717条1項)。以下その理由を示す。

(1)Hには、3か月の入院加療費用という「損害」が生じている。

(2)「瑕疵」とは、工作物が本来有しているべき安全性を欠いていることをいう。土地の工作物に設置されているエレベーターのボルトは、通常、十分に締められているものである。

 本件エレベーターは「土地の工作物」甲に設置されているものである。本件エレベーターのボルトは十分に締められていない。

 甲には「瑕疵」が認められる。

(3)Fの損害は、Fがエレベーターで転倒したことにより生じたものであり、Fの転倒は、エレベーターの瑕疵に基づくものである。

 甲の瑕疵に「よって」に損害が生じている。

(4)Aは、甲を「占有」している。

(5)以上により上記結論に至る。

2、Aが「損害の発生を防止するのに必要な注意」を行っていた場合には、Hは、甲の所有者Fに対して損害賠償請求を行う(717条1項但書)。

3、Hは、Dに対して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、損害賠償請求を行う(709条)。以下その理由を示す。

(1)Hは、右足を骨折している。Hは、身体という「権利」を侵害されている。

(2)エレベーターの設備の更新工事を行う者は、ボルトを十分に締める注意義務を負う。Dはかかる義務を行っていない。Dには「過失」が認められる。

(3)Hには、3か月の入院加療費用という「損害」が生じている。

(4)Hの損害はDの過失に「よって」生じたものである。

(5)以上により上記結論に至る。

第2、(2)について

1、身体的機能の低下及び疲労の蓄積は、人が日常生活を営む上で当然に生じるものであることから「過失」(722条2項)には当たらない。

2、もっとも、722条2項の趣旨は、損害の公平な分担である。ゆえに、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、722条2項を類推適用できると解する。

3、Hの身体機能の低下は、身体的特徴であり、個々人の個体差の範囲として当然に予定されているものであることから、損害の算定にあたりこれを考慮しなくとも公平を害しない。

 疲労の蓄積については、個々人の注意によって防止することができるものである。ゆえに、これを損害額の算定について考慮しないことは損害の公平の分担の趣旨に反する。

4、Hの疲労の蓄積については、722条2項を類推適用し、賠償額を減額事由になる。

以 上

 

平成25年 民事系第1問

〔設問1〕

1、保証債務とは、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする債務のことを指す(446条1項)。ゆえに、保証債務の履行を成立するには、①主たる債務の発生原因、②保証契約の締結、そして、③保証契約が書面でなされたこと(446条2項)を主張する必要がある。

 また、代理人を介して契約を締結した場合には、代理権の授与及び代理人による顕名を主張する必要がある(99条)。

(1)①主たる債務の発生原因は、AB間での甲を目的物とする売買契約の締結であり、これは問題無く認められる。

(2)保証契約はBがCの代理人としてAB間で締結している。本件書面には、BがCの代理人であると示されているので「顕名」は認められる。

 もっとも、Bは、Aから何ら代理権を与えられていない無権代理人である。ゆえに、Aによる「追認」が無い限り、AB間での保証契約の効果は、Cには帰属しない(113条1項)。

 Cは、Aに対して、平成22年6月15日に、電話で、AB間の売買契約について連帯保証人になることについて異存はないと告げている。ゆえに、Cによる「追認」があったといえる。

 Cの追認により、AB間での保証契約締結の効果は、契約の時に遡ってCに帰属する(116条)。よって、②保証契約の締結についても認められる。

(3)民法が保証契約締結について「書面」を要求した趣旨は、保証人の意思を明確化させることにより、保証人を安易な保証契約の締結から保護するところにある。

 ゆえに、「書面」と言えるためには、保証人の契約締結の意思が明確に表れている必要があると解する。

 保証人の意思が明確に表れているか否かは、当該書面の内容だけではなく、それ以外の客観的事情を考慮し合理的に判断する。

 本件書面には、Bが負う債務についてCが連帯して保証する旨の記載があるが、Cの署名又は押印は存在しない。もっとも、Cは、Aに対し、電話で、Bが負う債務について連帯保証することを承諾する意思表示を行っている。ゆえに、Cは、Aに対し、保証人となることを明確に意思表示していると評価できる。

 CのAに対する意思表示をもって、③本件書面は「書面」に該当する。

2、以上により、Aは、Cに対し、保証債務の履行を請求することができる。

〔設問2〕

1、Bは、Fに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、Eに支払った報酬相当の金銭の賠償請求を行う(415条)。以下その理由を示す。

(1)Bには、Eに支払った金銭相当の「損害」が認められる。

(2)賃貸人は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物を使用する債務を負う(616条、594条1項)。具体的には、建物賃貸の場合には、建物に亀裂を生じさせるような工事を行ってはいけない債務を負うと解する。

 Bは、Fとの間で、丙建物を目的物として、賃貸借契約を締結している。ゆえに、賃借人Fは、丙建物に亀裂を生じさせるような工事を行わない債務を負う。

 Fは、丙建物に内装工事を施し、これによって丙建物には亀裂が生じている。

 Fは、「債務の本旨に従った履行」をしていない。

(3)Bに生じた損害は、Fによる債務不履行に「よって」生じたものである。

2、以上を主張し、Bは、Fに対し、上記請求を行う。これに対して、Fは、丙建物に工事を施したのはFではなくHなので、Fには、債務不履行につき「帰責性」即ち故意過失又は信義則上これと同視できる事由が存在し無いと主張してくる。

(1)履行補助者の故意・過失は、信義則上本人の故意・過失と同視できる。

 Hは、Fからの依頼を受けて、丙建物に対して内装工事を施している(632条)。Fは、Hと共に内装の仕様及び施行方法を検討しており、その検討結果に従い、Hは丙に対して内装工事を行っている。ゆえに、Hは、Fの手足として動く履行補助者であると評価できる。

(2)内装業を営む者は、内装を行う過程で目的物につき亀裂を生じさせないように注意する義務を負う。Hは、丙建物の内装工事を行う過程で誤って丙建物に亀裂を生じさせている。

 Hには「過失」が認められる。

(3)ゆえに、Fには、「債務者の責めに帰すべき事由」が認められる。

3、以上によりFの主張は失当である。

 Bは、Fに対し、Eに支払った金銭相当の損害賠償請求を行える(415条)。

〔設問3〕

第1、GのBに対する請求権の存否について

1、賃借人Gは、賃貸人Bに対して、必要費償還請求権に基づき、GがEに対して支払った報酬の相当額を請求する権利を有する(608条)。以下その理由を示す。

(1)民法は、賃借人が賃貸目的物に対して費用を支出した場合、不当利得の観点から賃貸人への必要費償還請求権を認めている。

 ゆえに、「賃貸人の負担に属する必要費」とは、単に目的物の現状を維持し、又は目的物自体の現状を回復する費用に限定されず、通常の用法に適する状態において目的物を保存するために支出した費用を含むと解する。

 Bは、Gに対して、コーヒーショップとして使用することを目的とし、丙建物を貸し渡している。Bは、丙建物の窓が損傷した場合には、これを修繕する義務を負う(601条)。

 ゆえに、丙建物の窓の修繕費用は、「賃貸人の負担に属する必要費」に当たる。

(2)丙建物の窓は暴風により損傷した。Gは、Eに対して、丙建物の窓の修繕を依頼し、その費用を支払っている。

 Gは、賃貸人の負担に属する必要費を「支出」している。

2、以上により上記結論に至る。

第2、相殺の可否について

1、設問判例は、抵当権が登記されている場合、物上代位によりその抵当目的物に関して生じる賃料債権にも抵当権の効力が及ぶと公示されているため、抵当権設定登記後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を抵当権の効力に優先させる理由は無く、したがって、賃借人の相殺の主張を退けたものである(505条1項)。

2、必要費返還請求権は、賃貸借契約とは別個の原因に基づき発生するものであり、また、賃貸借契約締結時において、その発生が必ずしも予期されているものでは無い。したがって、必要費返還請求権は、登記された抵当権のように公示されているわけではない。

 ゆえに、設問判例は、必要費返還請求権を自動債権として抵当権の物上代位の効力が及ぶ賃料債権を受働債権とする相殺を禁じるものではない。

4、以上により、Dの反論は失当である。

 Gは、必要費返還請求権を自働債権として相殺の主張をすることができる。

以 上

 

平成25年 公法系第2問

〔設問1〕

1、取消訴訟の対象となる「行政庁の処分」(行訴法3条2項)とは、公権力の主体たる国若しくは公共団体の行為のうち、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものを意味する。

(1)本件認可は、「公権力の主体」たるC県知事が法39条2項に基づき行ったものである。

(2)土地区画整理事業とは、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する公共事業であり(法2条1項)、都道府県又は市町村は、これを施行することができるが(法3条4項)、公共事業の性質上、私人は、本来これを行えない。

 しかし、土地区画整理組合は、土地区画整理事業を行うことができ(法3条2項)、土地区画整理事業に係る施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、強制的に土地区画整理組合の組合員となる(法25条)。そして、土地区画整理組合は、組合員に対し、その事業に要する経費に充てるために金銭の徴収を命じることができる(40条1項)。

 ゆえに、土地区画整理組合は、法が認めた優越的な地位に基づき、土地区画整理事業という法の執行として、組合員に対し、権力的に金銭の徴収を命じる「公権力の主体」であると評価できるため、本件認可は、行政機関の内部的行為であり「処分」には当たらないとC県は主張してくる。

 もっとも、本件認可は、資料1の第6条〜8条を新設するものであり、本件臨時総会では、所有者等以外の者に対して賦課金が割り当てられる旨の本件要綱が議決されている(資料1第7条)。したがって、本件認可は、所有者等以外の者に対して、賦課金支払義務を形成するものであると評価できる。

 ゆえに、本件認可は、「国民の権利義務を形成する」ものである。

(3)条例の制定行為は、立法作用に属するものであり、その効果も、一般的抽象的に権利義務を形成するものであるため処分には該当しない。本件認可も、本件定款変更の認可であり、「直接」国民に対して権利義務を形成するものではないため、条例制定行為と同様に「処分」には該当しないとC県側は主張してくる。

 もっとも、本件認可によって、資料1の第6条から8条が新設され、組合員という限定的な者の中でも更に所有者等以外の者という限定的特定の者たちには、賦課徴金の支払い義務が「直接」に形成されると評価できる。

 ゆえに、本件認可は、一般的抽象的に権利義務を形成する条例の制定行為とは根本的に性質を異にするものであるため、C県の主張は失当である。

2、以上により、本件認可は、「処分」に該当する。

〔設問2〕

第1、法39条2項について

1、違法とする法律論

(1)公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進(法1条)といった社会政策を実現には、専門的判断能力が必要である。そして、かかる判断能力を有する国権は、行政権である。ゆえに、法は、組合の設立や定款変更の認可につき「必要な経済的基盤」といった抽象的な文言を基準とし定めている(法39条2項、21条1項4号)。「必要な経済的基盤」の有無について、法は、行政権に要件裁量を与えたものであると解する。

 本件認可の判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くか、または、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと等により本件認可が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱濫用として、本件認可は法39条2項の違法性を帯びる(行訴法30条)。

(2)本件事業は、地価が高騰しつつあったバブル経済期に計画され、保留地を高値で売却できることが資金計画の前提とされていたが、バブル経済の崩壊により、この前提が崩れている。ゆえに、本件組合に本件事業を行う「必要な経済的基盤」があるとしたC県知事の判断は、重要な事実の基礎を欠くものであると評価できる。

 また、本件組合は、地価はいずれ持ち直すという楽観的な見通しのもとに資金計画を変更し、さらに資金計画を迫られることを繰り返している。度重なる資金計画の変更は、本件組合が本件事業を遂行できるかについて大きな疑問を抱かせるものであることから、C県知事の本件認可の判断は社会通念に照らしても著しく合理性を欠くものであると評価できる。

(3)以上により、C県知事の本件認可は、裁量権の逸脱濫用として法39条2項の違法性が認められる。

2、適法とする法律論

(1)バブル経済が崩壊したからといって、地価がこのまま下がり続けるとは限らないことから、保留地を高値で売却できる可能性が全く無いわけではない。ゆえに、本件認可の判断となった事実に重要な基礎が欠けているとは言えない。

 また、本件組合は、度々資金計画を変更しながらも、補助金の増額や事業資金の借り入れにより対応してきている。ゆえに、本件組合に本件事業を行う「経済的基盤」が全く無いわけでは無いため、本件認可の判断が著しく合理性に欠くとはいえない。

(2)以上により、本件認可は、法39条2項に反するものではないといえる。

3、私見

(1)確かに、バブル経済が崩壊したからといって地価の下落が永遠に続くわけではない。しかし、地価が上昇する見込みがあるわけではなく、15億円もの負担を組合員が支払える保証があるわけでもない。

(2)ゆえに、本件組合に本件事業を行うために「必要な経済的基盤」は社会通展に照らして考えると、無いと考えるのが合理的である。

(3)本件認可には、法39条1項の違法性が認められる。 

第2、法38条4項について

1、違法とする法律論

 組合員は、書面により議決権を行え、出席者とみなされるが、議案に賛成するものと扱えるわけではない(法38条3項、4項反対解釈)。

 ゆえに、書面による議決権について、議案に賛成であると扱った本件臨時総会には、法38条3項、4項の違法性が認められる。

2、適法とする法律論

 本件では白紙委任が行われており、書面により議決権を行使した組合員は、議決権の行使を組合に委任したのであることから、かかる議決権を賛成として扱うことも委任の範囲内である。

3、私見

 本件要綱は、所有者等以外の者に賦課金支払義務を課すとしている。そして、書面による議決権行使者570名の有する宅地総面積は、21万㎡であることから、書面による議決権行使者は、平均して370㎡/1人の宅地を有することになる(資料2)。そして、自らに負担を課すような議案に全員が賛成することは明らかに不自然である。したがって、議決権行使者の合理的意思を考えると、少なくない人数が議案に反対したものであると考えるべきである。

 ゆえに、書面による議決権行使者の合理的意思を全く無視し、すべて議案に賛成であるとの扱いは白紙委任の範囲外にあるものである。上記適法とする法律論は失当である。

 本件臨時総会には、法38条3項、4項の違法性が認められる。

第3、法40条2項について

1、適法とする法律論

 組合は組合員に対して賦課金を課すことができるが、賦課金の額は「公平」に定めなければならない(法40条4項、2項)。

 本件組合の組合員の約80%は所有者等であることから賦課金が免除される(本件要綱)。ゆえに、本件賦課金は、組合員のうち20%の特定の者に対してのみ負担を課すものであり「公平」であるとは言えない。

 よって、賦課金の算定方法には、法40条2項の違法が認められる。

2、適法とする法律論について

 賦課金の算定方法は定款で定められているものではなく、本件定款変更とは無関係である。

3、私見

 本件要綱は本件定款変更と同時になされたものであることから、これらを一体として考えるべきでる。ゆえに、適法とする法律論は失当である。

 賦課金の算定方法には、法40条2項の違法性が認められる。

以 上

 

平成7年 旧司法試験 民法第1問

第1、本件冷蔵庫の撤去について

1、まず、Dは、ACに対して、本件山林の所有権に基づく妨害排除請求権に基づき、ACの費用において、本件冷蔵庫を撤去するようことを請求する(198条)。以下、その理由を示す。

(1)Dは本件山林を所有している(206条)。

(2)本件冷蔵庫はA及びDの所有物である。本件冷蔵庫が本件山林に不法投棄されていることにより、Dの本件山林の使用収益権の行使が「妨害」されている。

(ア)これに対して、ACは、本件冷蔵庫の所有権は放棄しているため、ACは本件山林の使用収益権の行使を「妨害」していないと反論する。

もっとも、物権は原則として各人が自由に処分できるが(176条、206条、376条)、物権を有する者は、その物権から生ずる責任を負わなければならず(717条)、物権について利害関係を有する第三者が現れた場合には、第三者の権利を害してはならない(3741項、398条)。ゆえに、物から生じた責任を放棄する目的での所有権放棄は「権利の濫用」として許されないと解する(1条3項)。

(ウ)ACの本件冷蔵庫の所有権放棄は、Dへ対する責任を免れる目的のものである。よって、ACの反論は権利の濫用であり許されない。

(3)物権請求権は相手方に妨害除去を忍容させるにとどまる権利であるから、費用負担は請求者側にあるようにも思える。しかし、自力救済が禁止されている以上、物権的請求権は、相手方に行為を求める行為請求権と解すべきである。よって、物権的請求権行使に係る費用は相手方が負担する。

2、以上により、Dは、ACに対して、上記請求を行う。

第2、損害賠償請求について

1、DACとの間に契約関係は存在しない。

2、Dは、Aに対して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、本件冷蔵庫の危険防止に必要な措置を講じるために費やした費用5万円の損害賠償請求を行う(198条、709条)。以下その理由を示す。

(1)Dは本件山林の「所有権」を「侵害」されている。

(2)廃棄物処理の専門家でもない者に業務用冷蔵庫の廃棄を頼んだ場合、不法投棄が行われることは飲食店経営者であれば予見可能であるといえる。ゆえに、飲食店経営者は、業務用冷蔵庫の廃棄を他人に依頼する場合には、廃棄物処理の専門家等、不法投棄をするおそれのない者に依頼する業務上の注意義務があると解する。

   Aは飲食店経営者である。Aは単なる知人のBに本件冷蔵庫の廃棄を依頼している。Aには「過失」が認められる。

(3)Dには5万円の「損害」が生じている。

(4)Aの過失がなければ、本件冷蔵庫が不法投棄されることも無かったといえる。本件冷蔵庫が不法投棄されなければ、Dが本件冷蔵庫に危険防止に必要な措置を講ずることも無かった。ゆえに、Aの過失行為に「よって」Dに損害が生じている。

(5)以上により、ADに対して上記請求を行う。

3、Dは本件山林の「所有権」を「侵害」されている。Cは「故意」に本件冷蔵庫をAの冷蔵庫のそばに捨てている。Dには5万円の「損害」が生じており、Cの故意行為がなければ、かかる損害は生じていなかった。Cの故意行為に「よって」Cに損害が生じている。

  以上により、Dは、Cに対して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、本件冷蔵庫の危険防止に必要な措置を講じるために費やした費用5万円の損害賠償請求を行う(709条)。

以  上

平成27年 民事系第1問

〔設問1〕

第1、(1)について

1、材木①は、平成23年4月1日、Aが所有する山林である甲土地から切り出した丸太をBが製材したものであり、山林は甲土地の「定着物」である(86条1項)。

ゆえに、Aは、平成23年4月1日時点から現在に至るまで、材木①の所有権を有していると主張する。

2、これに対し、Aは、Bに対して、4月1日に本件丸太を売却し、Bに引き渡していることから、本件丸太の所有権を失い、ゆえに、材木①の所有権も有しないとCは反論する(555条、176条、178条)。

  もっとも、Aは、Bに対して本件丸太を売却する際に、代金支払時まで所有権の移転を留保する特約を結んでおり、8月10日現在、Bは上記丸太の代金を支払っていない。ゆえに、AB間の売買の効果によって材木①の所有権は移転しない。

  Cの上記反論は失当である。

3、そこで、次に、Cは、即時取得により材木①の所有権を取得したと反論する(192条)。かかる反論は正当か。

(1)本件丸太は「動産」である。

(2)平成23年4月18日、BはCに対して、材木①を売却し、同月25日、これを「引渡し」た(182条1項)。

   Cは、「取引行為」によって材木①の「占有を始めた者」である。

(3)Cの占有は「平穏」かつ「公然」である。また、Bの材木①の占有は適法なものと推定されるため(188条)、Cは、Bの材木①の所有について「善意」であり「過失がない」と「推定」される。

   もっとも、Cは、これまでの取引経験から、Aが丸太を売却するときには、その所有権移転時期を代金支払時とするのが通常であり、最近、AB間でトラブルがあったことを知っていた。したがって、CはBが丸太の所有権をAから取得していないことを予見できたと評価できる。ゆえに、Cは、AまたはBに対して、AB間の売買について代金の支払いが済んでいるのか確認すべき取引上の注意義務があったと言える。

   CはAB間で代金の支払が既にされているものと即断し、A及びBに特に確認をしていない。

   Cには「過失」が認められる。

(4)Cの上記反論は失当である。

4、以上により、Aは材木①の所有権を有する。材木①の所有権者Aは、材木①を倉庫に保管することにより占有するCに対し、所有権に基づき、材木①の引渡請求を行える。

5、尚、Bは、1本15万円の本件丸太を材木に「加工」し1本20万円としているが、1本5万円の価格上昇は「工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超える」とは評価できない(246条但書)。

第2、(2)について

1、AはDに対して、付合による不当利得返還請求権に基づき、材木②の価格相当額の償還請求を行う(242条、248条1項)。以下その理由を示す。

(1)242条の趣旨は社会経済的不利益の回避にある。ゆえに「付合した」と言えるためには、分離することが社会経済上不利益であると評価できる客観的実体が必要である。

   材木②は乙建物の柱として利用されている。柱は建物の核であり、これを失うと建物は倒壊し建物としての実体を失うと言える。材木②は乙建物に「付合」している。

Dは乙建物の「所有者」である。Dは材木②の所有権を取得する。

(2)材木②の付合に「よって」Aには材木②の所有権喪失という「損失」が生じている。

(3)以上により、Aは、Dに対し、上記請求を行う。

2、これに対して、Dは以下の反論を行う。

(1)248条1項が準用する不当利得返還請求権(703条)の趣旨は当事者間の実質的公平の実現である。ゆえに、当事者間の関係を全体としてみて、利得者が対価関係なしに利益を受けたと評価できない場合には、248条1項の適用はないと解する。

(2)平成23年5月2日、Dは、Cと乙建物リフォームの請負契約を締結し(632条)、Cは乙建物のリフォームに材木②を使用している。そして、同年7月25日、DはCに対して請負代金600万円を支払っている。

   ゆえに、Dは、Cに対して材木②について対価を支払っていると評価できる。

(3)以上により本件に248条1項の適用は無い。

3、AのDに対する請求は認められない。

〔設問2〕

第1、(1)について

1、丸太③はA所有の甲土地の「定着物」である本件立木を切り出したものである(86条1項)。平成23年12月28日、丸太③の所有権者Aは、Eに対し、本件立木を売却している(555条)。

  以上により、Eは、Gに対し、丸太③の所有権を有すると主張する(176条)。

2、もっとも、Aは、Fに対しても、平成24年1月17日、甲土地及び本件立木を売却しているため、Fは、当事者AE及びその包括承継人以外の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」(177条)である。そして、Fは、甲土地の登記を取得している。

 ゆえに、Eは、Fに対し、甲土地及びその定着物である本件立木の所有権を主張できない。結果、Eは、一物一権主義により本件立木の所有権を喪失する。

3、Eの主張は失当である。Gは、AF間の甲土地売買及びFの甲土地所有権移転登記の事実を主張・立証することにより、Eの請求を拒否することができる。

第2、(2)について

1、GはEに対して、留置権に基づき、Eの請求を拒否する(295条1項、299条1項)。以下その理由を示す。

(1)丸太④が「他人」Eの「物」であり、Gが「占有」していることに争いはない。

(2)留置権は、他人の物を留置することによって、相手方に心理的圧迫を与えて弁済を促すことを目的とする。ゆえに、「その物に関して生じた債権を有する」かは、債権と物との間に牽連関係の有無により判断する。

   Gは、Fとの寄託契約(657条)に基づいて、丸太③の占有を開始している。GはFに対して、本件寄託契約に基づき、30万円の保管料支払請求権を有し、Gが丸太③を留置することにより、Fに対して保管料の支払いを促すことができる牽連関係が認められる。

   ゆえに、Gは丸太③に「関して生じた債権を有する」。

2、以上により上記結論に至る。

〔設問3〕

第1、(1)について

1、「行為の責任を弁識するに足りる能力」とは加害行為の法律上の責任を弁識するに足りるべき知能を意味する。Hは「未成年者」であるが、満15歳であるから、責任能力が無いとは言えない(712条)。ゆえに、本件に714条の適用は無い。

  Lは、Cに対して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償請求を行う(709条)。以下その理由を示す。

(1)Lは右腕を骨折している。Lは身体という「権利」を侵害されている。

(2)CはHの親権者であるため、CはHを監護する義務を負う(818条、820条)。具体的には、Hが悪質な悪戯をしていることをCは認識していたのであるから、反抗的なHにどのような対応をすればよいのかを学校の職員に聞く等何らかの対策を講じる義務があったと言える。

   CはHに一般的な注意をしているが、それ以上の対策は講じていない。Cには「過失」が認められる。

(3)Lには、右腕骨折の治療費等として30万円の「損害」が生じている。

(4)CがHに適切な対応をしていれば、Hが悪戯をしなくなり、Lに上記損害は生じなかったと言える。Cの過失行為に「よって」Lに損害が生じている。

2、以上により、上記結論に至る。

第2、(2)について

1、CはLに過失があったと主張し、損害賠償額の過失相殺を主張する(722条2項)。以下その理由を示す。

(1)Lは「被害者」である。

(2)過失相殺の趣旨は、損害の公平な分担にある。ゆえに、「過失」とは、被害者と身分上一体をなすとみられるような関係にある者の過失も含まれると解する。

   KはLの親である。Kは、Lと身分上一体をなすとみられるような関係のある者に該当する。

   前照灯が故障している自動車を運転すると、前方が見え難くなるので、運転手は通常要求される以上に前方に注意を払う義務があると評価できる。

Kはあたりが暗くなってから前照灯が故障している自動車を運転している。Kには通常要求される以上の前方注意義務があったと評価できる。

Kは前方に通常以上の注意を払うことなく、携帯電話で電話をし、片手で自動車を運転している。Kには「過失」が認められる。

ゆえに、Lには「過失」が認められる。

2、以上により、上記結論に至る。

以  上